筋太郎

遊多

筋太郎

 むかぁしむかし。足柄のスポーツジムのあるところに、筋太郎という屈強なマッチョの子がいました。

 筋太郎の友達は、山のように三角筋を積み上げたマッチョたちです。

 そんな筋太郎は毎日まいにち、ケーブルマシンやダンベルで遊んでいました。


「すごいな筋太郎! これでダンベル三百キロだぞ!」


「その腕と溶けるように相撲してみたいわ!!」


 ジムには全国ボディビル大会で優勝経験のあるマッチョやオリンピックで銅メダルを取ったマッチョも居ましたが、筋太郎にはかないません。

 さらに筋太郎は力持ちだけではなく、とても気の優しいマッチョの子でした。


 しかしスポーツジムはトラックに勝てませんでした。


「ふぬぐぅううううううッッ!!!!!!」


 なんと筋太郎はメロンのように血管を浮かせながら、熊より大きな暴走トラックを受け止めてみせました。


「おどれ何処んモンじゃあ!! みんなんジムば酷いようにしよってえ!!」


 たまらず筋太郎は叫びますが、そこは暗い謎の場所でした。


「おう兄ちゃん。お前さん、おっ死んじまったんじゃ」


「誰じゃおどれぇ!!」


 筋太郎に話しかけてきたのは、なんと大胸筋と腎筋群の大きな雌神様でした。

 色恋に目覚める歳ではありませんが、そのポセイドンのような神々しい肉体に見惚れてしまいます。


「トラックと相撲やって憤死たぁ、随分大した根性じゃねえか。なら、いっぺん生き返ってみねえか」


 雌神様は、他の世界で暴れる魔王を筋太郎に倒してほしいようです。

 優しい筋太郎は、ぼくに任せて! と言わんばかりに、どんなメスゴリラも股を開きそうなほど強く胸を叩きました。


「そんじゃあ、このドアからシャバに出れるからよ」


「要らん」


「なんや。今さらイモ引くんかワレ」


 雌神様が首を傾げますが、筋太郎は気にも止めずに何も無いところへ体当たりしました。

 まるで戦車のような一撃で空間が割れ、初めの野原ではなく魔王の部屋へと繋がってしまいました。


「これでよか」


「いや待て、それはおかしいだろうが!!」


 たまらずマッキンリーのように身体を鍛え抜いた魔王も立ち上がり、不法侵入した筋太郎を殴り殺そうとします。


「おどりゃかましたれェ!!」


「タイマンじゃああああああ!!」


 筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋筋キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!!!


「なぜだ、なぜこのようなふざけた連中に我が押される!?」


「プロテインが足りないんじゃあ、おんどれぇええええッッ!!!!」


 K.O.!!

 アゴを捉えたアッパーによって、後に筋肉の神話として語り継がれる魔王星が誕生しました。


「よう魔王のタマ取ってくれたのう! なら」


「なに言うとんじゃ」


 ボスマッチョを倒したことに浮かれたメスマッチョは、タロマッチョの言葉がわかりませんでした。


「ほんのこて敵ば、他におるじゃろが!!」


 しかし魔王の玉座に体当たりしたところで、彼は元の世界へ戻ろうとしていると筋肉で理解しました。


「邪魔したわ」


「邪魔やったから帰ってや〜」


 こうして雌神様に見送られて、筋太郎は元の世界に戻っていきました。


 気がつくとそこは、トラックが突っ込んできたが筋太郎が止めてくれたおかげで大して被害の無かった足柄のスポーツジムのあるところでした。


「ヒィッ! お爺さん、この化け物生きとるぞ……!」


「お婆さん、わしゃ腰が抜けて動けん……!」


 何かすっごい良い感じな筋肉の悪魔と化した筋太郎は、ヒョロガリ老夫婦の首根っこを掴んで叱りつけました。


「金払うか、腹切るか、どちらか選べやぁ!!」


 こうしてお爺さんは金借りに、お婆さんは海へ蟹漁に行きました。

 この伝説にもなったがめつさから、やがて筋太郎は『金太郎』と呼ばれるようになりましたとさ。

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筋太郎 遊多 @seal_yuta

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