瓶屋さん

青時雨

瓶屋さん

私のお店では色々な形をした瓶を売っているの。


くまさんが来店すれば、ジャムを入れるのにぴったりな可愛らしい瓶を勧める。

彼女がおすそ分けしてくれるジャムはどれもとってもおいしいの。先日もらった木苺ジャム、おいしかったなぁ。


隣のお店のワニ店長も、お野菜でピクルスを作る度にここで大きな瓶を買ってくれるの。

時々新作の味見を頼まれるけど、どれもほっぺたが落ちそうなくらいおいしいの。



お客さんはみんなおいしいものを詰めるために、瓶を求めてここへ足を運んでくれる。

私が作っているのは、みんなの〝おいしいたからもの〟を閉じ込める宝箱みたいなものなのかも。




◇ ◇ ◇




「あれ、開かない」



はちみつバターを入れるのにぴったりな瓶を求めて来店したリスさんにこの瓶を勧めようとしたら、蓋が固くて開かない。



「どうなさったの?」



くまさんが子どもたちを両腕に抱っこして来店した。

瓶の蓋が固くて開かないんだと説明する。



「私に任せて」


「「まま頑張って!」」



子どもたちを抱っこしていたらいつの間にか腕に筋肉がついていたと言う彼女は、抱っこしていた子どもたちを一旦下ろすと、私から瓶を受け取り蓋を捻る。



「うーん…ごめんなさい、私には開けられそうにないわ」


「どうしたんだい?」



くまさんが蓋を開けるのを断念すると、丁度ワニ店長が来店。

事情を説明すると、ワニ店長はふふんと鼻を鳴らした。



「俺に貸してみな」



腕まくりをしたワニ店長。そう言えばこの前、筋トレを始めたって言ってたな。

くまさんから瓶を受け取ると、ワニ店長は蓋を捻った。



「おっ…こりゃ手強い。狼さんなら開けられるかもしれないぞ」



店を飛び出して行ったワニさんは、ワイン屋から狼さんを連れて来る。

毎日12ダースのワインが入った木箱を運ぶ狼さんは、みんなもよく知る力持ちだ。

事情を話すとワニさんから瓶を受け取った狼さんは蓋を捻った。

けれど、結果は同じ。はちみつバターにぴったりの瓶の蓋は、びくともしなかった。



リスさんには別の瓶を勧めよう。

諦めかけたその時、彼氏がお弁当を忘れたと仕事先から戻ってきた。

私の作ったお弁当が食べたいって言うから朝早く起きて作ったのに、それを忘れて行ったこと私怒ってるんだから。



「どうしたの?」



店内にいる誰もが困まり顔で彼を振り返った。

彼は全然筋肉とは無縁だし、むしろ非力な方だ。くまさんもワニ店長も狼さんもみんな開けられなかったのだから、彼には開けられないだろう。

事情を話せば「俺も挑戦してみようかな」と狼さんから瓶を受け取った。



「開いたよ」


「え、うそ」



くまさんもワニ店長も狼さんですら開けられなかったのに。

なぜ彼が開けられたのか不思議で仕方ない。



「この瓶、他の瓶と違って蓋を捻る向きを逆にして作ったって言ってたから」



すっかり忘れていた。

私の勘違いでずっと蓋を閉めていたくまさん、ワニ店長、狼さん。みんな「また瓶が開かない時には呼んでね」と力こぶを見せた。何とも頼もしい。

そうして私は無事リスさんに、はちみつバターにぴったりの瓶を勧めることが出来たのだった。

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瓶屋さん 青時雨 @greentea1

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