人体模型のもっくんさん
一色まなる
人体模型のもっくんさん
「輪飾りって廊下に貼るんだよね、長さ足りる?」
「おーい、オバケ提灯の位置ちょっと上げて―!」
「看板外に出していい?」
きゃいきゃいと大きな声が理科室の実験室から聞こえてくる。一方こちらは理科室の準備室。光に弱いものが多いので、いつも薄暗いのです。いいんです、僕も明るいのは苦手です。
僕の仕事は子ども達に人間の体の形を教えることです。子ども達は僕よりずいぶん小さいですが、僕と同じ姿をしています。でも、彼らは動くことができます。
いいんです。たとえ動けたって、内臓がぽろぽろ落ちちゃうのです。
「お化け屋敷楽しんでくれるといいよな―」
「うんうん! 年に一度のゲーム集会だもん!」
「理科室のお化け屋敷、毎年激戦区だもん。くじ引きに勝ててよかった!!」
そうでした。毎年この小学校ではゲーム集会と言って、小規模な出し物をするんです。そして、理科室でお化け屋敷をするのは毎年恒例で、やりたがる子ども達はわんさかいるのです。
どうやら、今年は4年生のグループが当てたようです。去年は2年生だったので、僕の出番はありませんでした。僕を見るなり、”怖い”と言って逃げて行きました。
高学年の子ども達は肝が据わっていて、久々に僕の出番ができるのではないかと思います。これは、張り切らなきゃ。
「じゃーここに人体模型運ぶぞー!」
おや、あの声は担任の先生のようです。僕の出番のようです。
緊張してきました。時々メンテナンスをしてもらっているので、塗料が剥がれては無いと思いますが。よし、気合を入れるために頬を叩こう。
「おや、誰だこんないたずらをしたのは」
目の前に先生が居ました。僕は頬を叩いたポーズで固まってしまいました。
「まったく、誰かは知らんがいたずらはいかんな」
すみません、いたずらではないので怒らないでください。話せたらよかったのに、と思いましたが確かこの人、ホラー苦手だったような……。子どもの頃から。
「あ、先生! ここに置いてください!」
僕は実験室の中央に置かれました。そして、赤いランプや骸骨に囲まれました。
「怖いな―」
「ふふ、私、頑張った!」
「さすがホラー上級者……。リアルだわ」
「これで完成だね!!」
へ? これで終わりなんですか? いや、本物のお化け屋敷を知らない僕が言うのはどうかと思いますが。僕はここに立っているだけでいいんですか?
「へへ! 俺は狼男だぜ!」
「蛇女になってみたよ。この蛇のフィギュアリアルでしょ?」
「じゃあ、私は魔女になるわ!」
ほら! 子ども達は思い思いにオバケになりきってる! 僕も何かしなければ!
子ども達は僕を置いて理科室から出て行きました。では、こうだ!
「あ、だれー? 人体模型動かしたのっ!」
女の子に元に戻されました。えい!
「人体模型がモデル立ちしてるー!!」
また戻されました……。ならこれなら!
「相撲取りのポーズなんてホラーにならないってば……」
それから何度もやり直ししました。お客さんとしてやってきた子ども達も、僕のポーズに怖がっていいのか、笑っていいのか分からないリアクションをしていきます。
「お化け屋敷は成功だったけど、誰人体模型動かしたの!」
「俺じゃないってば!」
「僕も違う!」
「私は違うわよ!」
「ごめん、僕がやりました……」
「なんだ、君かぁ……」
「ごめんね、楽しいかなって……」
「楽しいからって―――、待って……今しゃべったの……」
そのとたん、子ども達が今日一番の悲鳴を上げたのでこれでお化け屋敷成功ですね! やりました! 来年もどうか僕を使ってね!
人体模型のもっくんさん 一色まなる @manaru_hitosiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます