第3話 ダイエットの道は険しいです。

『ダイエットには欠かせない指数があります。


それはBMI指数(ボディマス指数)という肥満度を示す値です。


この値が22であれば健康体重といい、一番病気になりにくい体重です。


一方多くの女子が目指すのは美容体重といってBMI指数が20以下の体重です。


BMI指数の計算方法は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)


一応BMI指数が25までは普通体重と言えます。』





「・・・えっと、私の体重のBMI指数は・・・・・・23?!」


美容体重はおろか健康体重すらオーバーしてる!


うううっ。


私の体重、かなりまずいことになっている!!


現状を把握した私は、改めてダイエットに励むことを強く決意した。





「で?どんなダイエットをするのさ。」


順の問いかけに私は大きく頷いてみせた。


「うん。色んなダイエットの本やサイトを見てみたんだけど・・・結局、リンゴダイエットや炭水化物抜きダイエットは一時的には痩せても、リバウンドしちゃうらしいんだよね。結論から言うとダイエットに王道はなくて、カロリー計算による食事制限、そして代謝アップや体の線を整える為の継続的な有酸素運動や筋トレ。これしかないみたい。」


「だけど食べることが大好きな芽衣ちゃんが、食事制限なんて出来るの?」


「出来るの?じゃなくてやるの。」


「でも芽衣ちゃん、学生時代はずっと文化部だったよね。たしか漫研だっけ?一体どんな運動するつもり?」


「・・・・・・。」


たしかにカロリー計算をしながらの料理はなんとか頑張れそうだけど、運動なんて学校を卒業してからというものの、まったくしたことがない。


でもジョギングくらいなら出来そうな気がする。


「私、朝早く起きて、川沿いのジョギングコースを走ることにする。」


「ふーん。ま、頑張って。」


「頑張って、って他人事みたいに言わないでくれる?私を起こすのは順の役目だからね。」


「ええー?!なんで僕が。」


「ま、頑張って!」


私は順の首に手を回し、軽くスリーパーフォールドをかました。


「・・・やめろっ!わ、わかったよ!起こせばいいんでしょ?」


「順、ありがとう!」


私はそう言って順の両手を握り、上下に振った。





一日目。


目覚まし時計がけたたましく鳴る音と同時に、順が私の身体を揺り起こした。


「芽衣ちゃん!起きて!今日からジョギングするんでしょ!」


「う、うーーん。」


私は眠い目をこすり終わると、ガバッと布団から飛び起きた。


昨夜押し入れの奥の衣類ケースから引っ張り出してきた、高校の時に履いていた緑色に白い線が入ったジャージと、スヌーピー柄のTシャツに着替える。


「なにその恰好。ダサッ!!」


スニーカーに履き替える私を、順が腕を組みながら見下ろした。


「これしかないんだもん。」


「はいはい。いってらっしゃい。」


順に見送られ、私はマンションを出ると、近くの川沿いまでの道を、ゆっくり走りだした。


ジョギングコースまで行くと、同じくジョギングをしている人達に、私はどんどん追い越された。


私以外のジョガー達は、スポーツブランドのTシャツに短パン、そして黒いタイツにランニング用シューズを履いたガチ勢ばかりだった。


それにしても、いきなり走ったから息が切れて仕方がない。


まだ15分も経たないうちに、私は川沿いにある小さなスペースのベンチに腰かけると、足の力が抜けてしまい、走る気力を失ってしまった。


はぁはぁと荒い呼吸をする私の前を、茶色いトイプードルがリードに引かれてトコトコと軽快に小走りしていく。


「ううっ。私、トイプードルにも負けてる。」


たった一日目で、私の心はポキンと折れたのだった。


そして次の日からはジョギングはせずに、家でラジオ体操をすることにした。


「イッチ・二・サンシッ!ゴーロク・シチハチ!」


「有酸素運動が必要なんじゃなかったの?」


順がニヤニヤしながら、そうまぜっかえす。


「ラジオ体操だって立派な運動なの!」


私はそう言って頬を膨らませ、耳を塞いだ。





「え?久保田ちゃんのお弁当、それだけ?」


職場での昼休み。


食堂で持参のお弁当の蓋を開けた私に、麻沙子先輩が声を掛けた。


「いつもはもう一回り大きなお弁当箱に、おかずを沢山詰めて持ってくるのに、どういう風の吹き回し?」


そういう麻沙子先輩は、いつもコンビニで買ったサンドウィッチと、パックの牛乳で昼食を済ましている。


今日の私のお弁当の中身は少量のご飯にトリのささ身に胡麻ドレッシングをかけたものと、ブロッコリー、ヒジキ煮、黒豆、以上。


「ダイエットを始めたんです。この前、体重を測ったら思ってた以上に体重が増えてて。すごくショックです。」


私は肩を落として同情を買うように、しんみりとそうつぶやいてみせた。


「ええ?全然太ってないよ~。気にし過ぎじゃない?」


「麻沙子先輩にそう言われても、まったく説得力ありません。」


麻沙子先輩は足も腰も細くて、少しの風でも吹き飛ばされてしまいそうな体つきをしている。


「はぁ・・・。麻沙子先輩が羨ましいです。」


「私は久保田ちゃんが羨ましいわ。だってお胸が大きいもん。私なんてぺったんこ。」


「・・・・・・。」


たしかに私の胸はFカップくらいある。


でもそれで得したことなんてない。


学生の頃は体育の時間に運動すると、胸が必要以上に揺れて男子の目が気になり、恥ずかしくて仕方がなかった。


満員電車でも胸が男性の身体にくっつかないように、苦労している。


胸が強調されてしまうから身体にピッタリとした服は着れないし、流行の服は皆スレンダーな女性に似合うように出来ているから、胸の大きい私が着るとなんだか野暮ったく見えてしまうのだ。


「私はぺったんこでもいいから痩せ体質になりたいです。」


「お互い、ないものねだりよね。」


麻沙子先輩はそう言ってふふふと微笑んだ。


「ダイエットの為の運動とかはしてるの?」


「それが・・・」


私はジョギングを一日で止めてしまったことを麻沙子先輩に話した。


麻沙子先輩は少し考え込んだあと、私にこう提案した。


「久保田ちゃん。フィットネスクラブには行ったことある?」


「フィットネスクラブ?聞いたことはありますけど・・・」


「久保田ちゃんみたいにダイエットしたい人や、身体を鍛えたい人達が運動するところなの。筋トレしたり、ヨガやストレッチやボクササイズや・・・自分の好きなクラスを選べたりもするの。」


「へえ・・・そうなんですか。」


ヨガかぁ・・・ちょっとやってみたいかも。


「麻沙子先輩も行ったことがあるんですか?」


「まさか!私じゃなくて、その、彼氏がね。」


「麻沙子先輩、彼氏いるんですね。いいなぁ。」


「あれ?久保田ちゃんにもいなかったっけ?」


「えっと・・・彼は仲の良い友達で・・・。」


もし私がもっとスタイルが良かったら、勇吾君は私を好きになってくれたのかなぁ。


そんな私の内心を知らない麻沙子先輩は、フィットネスクラブのメリットについて滔々と語り始めた。


「施設は綺麗だし、インストラクターさんもすごく親切らしいわ。」


「それは嬉しいかも。」


「お金をかけていると思うと、勿体ないからさぼれないじゃない?」


「たしかに。」


「あ、そうだ。彼氏の通っているフィットネスクラブのチラシ持ってるからあげる!」


「え、いいんですか?」


麻沙子先輩から手渡されたチラシには、オレンジ色のジャージを着たインストラクター達の爽やかな笑顔と、様々なトレーニングマシンの写真、そして最初の1ヶ月は無料でお試し会員になれる旨がデカデカと書かれていた。


「一か月お試し出来るんだ・・・。」


私は、そのチラシのうたい文句に釣られて、すっかりそのフィットネスクラブに行く気になっていた。



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