最終決戦! 旧久野邸公園へ

「そうか。主犯格の2人は過去の事件の関係者だったのか……」


「うん。それが今回の犯行とどう関係があるのかはわからないけど」


 この日、雨月が退院するというので僕は病院まで迎えに行った。

 その時に、先日調べた情報を雨月に話したのだ。


「もう本人達に直接聞くしか無いけどさ、次はどこに現れるか……」


「それなら、伊藤さんがもう予測を付けているぞ。前に見舞いに来てくれたときに教えてくれた。旧久野邸公園だろうってさ」


 旧久野邸公園。

 久野市の中心部に位置する広大な公園で、敷地の中央に大きな池があるのが特徴だ。

 その名の通り、久野家の屋敷があった場所でもある。


「昔の人ってさ、風水とか土地の吉凶とかを気にするだろ? まぁそういったものを考えて城とか屋敷を建てると、そこが魔法的にいい立地である場合が多いんだってさ」


「だから、旧久野邸公園じゃないかってことか」


 それから数日後、伊藤さんの予想が当たっていたことが証明された。

 ただ、伊藤さんから聞かされていなかった事実も同時に判明したけど……。




 数日後、僕と雨月は旧久野邸公園へ足を踏み入れた。

 実は伊藤さんからの情報で、在原康子と西行代の2人が現れる可能性が高い日を教えて貰っていたのだ。

 なんでも、大規模な魔法を発動させるのに適した日というのがあるらしく、2人が行動を起こすならその日だろう、ということらしい。


「現れたわね」


「西行代……」


 公園の入り口付近で現れたのは、西行代だった。


「それで、私達の事について調べたのかしら?」


「ああ。昔起こった事件の被害者や関係者なんだってな。だが、犯人達は逮捕され、あんたの方に関しては刑罰も受けている。

 だからこそわからない。刑罰を犯人が受けている以上、復讐という線も薄い。何が目的なんだ?」


「……なるほど。康子ちゃんの方はともかく、私の方は裁判記録までは見ていないのね」


 ため息をつくと、西行代は僕達に語りかけるように話し始めた。


「あなたは疑問に思わなかったかしら? 娘が殺された場所と時間帯は、人通りがはげし勝った。なぜ、誰も娘が殺されるのを止めなかったのかって」


「確かに、不自然に思ったけど……」


「そのことは、裁判で召喚された目撃者の証言でハッキリしたわ。その人が言うには、『止めたかったけど、声をかけると不審者に間違われるから止められなかった』って」


 大人が見ず知らずの中学生に声をかけるなんて、事案以外の何物でも無い。みんな不審者に間違われるのが嫌だったから、目の前のいじめや殺人を止められなかったのか……!


「この国では、子供を守るために『不審者』という概念が出来たわ。それと一緒に、子供に好意を持ったり、近づいたりする大人は不審者で間違いない、通報すべき人物だという価値観も生まれた。

 でも、実際に起こったのは子供と大人の分断。そのせいで、子供が行っている危険な行為を止めることが出来なくなっている。

 『不審者』なんて言葉は、子供を守るどころか逆に危険にさらしている。娘の死によって、それがよくわかったわ」


 そして、西行代は自分たちの目的を語った。


「もう娘のように死ぬ子供を見たくない。それには、『不審者』という概念を消し去るしかない。

 そのために、大人と子供の恋愛が普通の事だという認識を植え付けるの! 全世界に!!」


 その瞬間、西行代の周囲に大量の短冊が舞い上がった。


「石田、お前は先に行け」


「雨月はどうするんだ」


「こいつを止める。その間に石田は魔法の儀式を行使している在原康子を止めるんだ。今も儀式は進行しているはず。放っておけば手遅れになるぞ」


「……わかった。気をつけろよ、雨月」


 そう言い残し、僕は公園の奥へ走って行った。




「クソ……攻撃できる隙が見つからねぇ……」


 現在、石田は西行代からの猛攻にさらされていた。

 西行代は短冊を媒介に強力な風を発生させており、その風は草や木の枝をキレイに切断できるほど鋭い刃となって石田に襲いかかった。


「どうしたの。あなた、あの人のために私の相手をするんじゃ無かったの? そんなんじゃ、私はすぐあの人のところに行っちゃうわよ」


「グッ……」


 西行代に煽られるが、なかなか隙を見せないため石田は八方塞がりの状態に陥っていた。


(考えろ……なにか手はあるはずだ……)


 必死に考えた末、石田はある事を思い出した。


「……これしかない!!」


 石田は自らの武器『レーザーアルクス』を構えると、なんと足下の草に向けて発射した。

 高出力のレーザーに焼かれた草には、火が付いた。さらに西行代の魔法によって起こった風により、火の勢いは劇的に強くなる。

 そして短時間の間に、石田と西行代の周囲は火の海になった。


「こ、これは……」


「そういえば、あんたの使ってる魔法は『文学魔法』だったな。だったら、弱い物は自ずと決まっている」


 文学魔法の弱点。それは『火』だ。

 文学、すなわち紙を媒体にして執筆する物を利用して魔法を放つ以上、紙の弱点となる存在があると多大な影響を受けてしまう。紙の弱点となる物は色々あるが、火は特に文学魔法の弱点とされる物だ。

 石版や粘土板に彫っていたり最初から紙を燃やすことを計算に入れて魔法を発動させたりした場合は例外だが、西行代が風の魔法で攻撃を仕掛けている状況を見るにそういった例外的な文学魔法ではなさそうだ。

 なお、この知識は石田が入院中に伊藤から聞いていた知識だ。


「あんたの魔法、弱くなってきたな。どうやら俺の戦法は当たりだったようだ」


「……そのようね。そして……ああ、私たちの方も終わりみたい」


「……おい、どうしたんだ!?」


 石田が優勢になった瞬間、西行代はなぜか意識を失い、その場に倒れてしまった。


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