神社の落書き

「久野神社に不審人物?」


 ある日、僕と雨月は北山先生に呼ばれ、依頼室で話を聞いていた。


「はい。神社の神主さんから依頼が持ち込まれました」


 話によると、最近不審な人物が神社に出没するようになっており、心配だから対策をして欲しいとのこと。


「職質は……やらない方がいいんですよね」


「そうですね。下手に職質すると問題になる可能性がありますし、2人の立場を悪くしてしまうかもしれません」


 この前の授業で、職質はやらない方がいいと教えられたばかりだ。

 そんな話を聞いたばかりなのに教えを破るなんて、とてもじゃないけど出来ない。


「とりあえず、神社に行って話を聞いてみよう。取れる手立ては限られると思うが。それでいいか、石田」


「もちろんだよ、雨月」


 というわけで、久野神社へ足を運ぶことになった。




 久野神社は、久野市北部にある神社だ。

 その来歴は古く、久野氏が荘園を開いた時と同時期に設置された神社らしい。

 祀られている神様はもちろん、久野家の氏神だ。


 そんな神社で、僕と雨月は神主さんから話を聞いていた。


「こちらで不審者を発見したんですね?」


「ここ、本殿の裏じゃねぇか……」


 どうやら本殿の裏手で、怪しい人物が何かウロウロしているところを掃除に来ていた氏子さんが発見したらしい。しかも、何度も。


「それで、不審人物の特徴は?」


「それが、目撃者によって証言が異なっていまして……。若い男という人も居れば高齢の女性と言っている人も……」


 もしかして、複数犯か?


「とりあえず、しばらく我々で張ってみます。それでいい、雨月?」


「ああ、かまわないぜ。交代で見張ってよう」




 数日後の深夜。この日のこの時間は、雨月が見張りをしていた。

 雨月は本殿の裏手にある林に身を潜めており、侵入者からは見えない位置から本殿を見張っている。


「……ん? あれは……」


 見張りを続けていると、本殿の床下から何かが現れた。

 完全に姿を現したその存在の正体は、中年男性だった。


「目撃証言とは違うな。それに、石田からはあんな人物の話は聞いていないし……」


 石田と雨月は、本殿の裏にやって来る人物の情報を共有するようにしていた。だが、目の前の人物は2人が持つ情報には全くない人物だった。


 だがいずれにしても、この時間に神社関係者以外で本堂にやって来ることは出来ない。

 久野神社は、日暮れと共に本殿へ至る門を封鎖するため、一般人は本殿までたどり着くことが出来ないからだ。


 つまり、この時間に本殿付近にいる時点で、不法侵入者として逮捕することが出来る。


「すみません、神社から依頼を受けたバウンティハンターですが。この時間にこんな場所で何をされていました?」


 雨月は、なるべく刺激しないように接触を試みた。目指すのは、任意同行に近い形で逮捕すること。

 だが目の前の男は突然の雨月の登場に動揺しているせいか、何も答えない。


 少しして、男は何かを取り出した。それは何枚かの短冊だった。


「なるほど……。あなた、恋をしていたんですね? しかも男の子と。どうやらフラれてしまったようですが、心の奥底ではまだ諦め切れていない、と」


「……っ!!」


 雨月は距離を取り、自らの武器『レーザーアルクス』を構えた。

 見ず知らずの人間にいきなりプライベートなこと、しかも正確な情報をしゃべられたら、誰だって警戒する。


 しかし男は武器を構えられても全く意に介さなかった。


「いいなぁ、愛する人が同い年で。一応理解してくれる人が居て。ああ、全く、――しい」


「な……?」


 この直後、雨月が見たのは驚愕の出来事だったのだが――雨月の記憶は、ここで途絶えた。


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