寺での再会

「雨月が重傷!?」


 朝一番で北山先生から緊急連絡が入った。なんでも、雨月が何者かに襲われて重傷を負ってしまったらしい。


『はい。出血多量の意識不明で、現在集中治療室で治療中です。なので、何があったか聞くことも出来ず……』


 本殿周辺は、監視カメラが設置できない場所だ。だから雨月本人から何があったか聞き出すしか無いんだが……意識が回復するのを待つしか無いか。


『身体には大量に切りつけられた傷がありましたので、間違いなく誰かにやられた可能性が高いと思われます。

 それと、こんな事態になってしまったので石田君達に依頼されていた案件の危険度が跳ね上がり、協会から手練れのバウンティハンターを派遣して貰うことになりました。依頼の方はそのバウンティハンターの方に引き継がれることになります」


「わかりました……。雨月が回復したら、お見舞いに行こうと思います」


『そうしてください。それと石田君、くれぐれも無理をしないように』


 ……とりあえず、今自分に出来ることをやるしか無いか。




 翌日、僕は久野市の南東にある寺『久野寺』に来ていた。平安時代と鎌倉時代の境目当たりに建立された由緒正しいお寺で、久野家の氏寺である。


 今回ここに来た理由は、雨月の快癒願いを行うため。

 快癒願いなら久野神社でも出来るが、あそこは雨月が襲撃された場所だし縁起が悪そうだからね。


 快癒願いを終えて帰ろうとしていると、寺の境内にある地蔵を収めた覆堂の前に女性がいた。


「お久しぶりですね、ハンターさん」


「あの……どこかでお会いしましたか?」


 確かにこの女性、始めて見る気がしないんだけど、どこで会ったか思い出せない。


「盗撮事件――実際はスキミング事件でしたけど、その時に聞き込みにいらしたでしょう?」


 ああ、確かに話を聞きに行った。確か、あんまり顔が似ていない娘さんと一緒だった人だ。


「お2人のおかげで、財産を取り返すことが出来ました。ありがとうございます」


「それはなりよりですね。ところで、ここで何をされていたんですか?」


「ちょっと祈願したいことがあって。本堂で祈願するよりも、元々本堂があったここの方が、効力が高いと思って」


 今は地蔵と地蔵を覆う覆堂があるだけだが、実は元々この場所が本堂だったらしい。

 江戸時代に本堂が火事に遭ってしまい、それから現在ある場所に改めて本堂を建てたのだとか。


「それでは、私はこれで失礼します。もうお一人のお怪我、治るといいですね」


 そう言うと、女性は去って行った。

 ……あれ? 待てよ……。


「雨月が負傷したって事、僕言ったっけ……?」




 数日後、バウンティハンター協会・久野支部の会議室に僕は呼び出された。

 そこには、北山先生と伊藤さんがいた。つまり、魔法関係の話と言うことだ。


「久野神社の本殿周辺を捜査したところ、本殿の床下にこのようなものが描かれていました」


 北山先生が見せてくれた写真には、本殿の床の裏に魔方陣のようなものが描かれていた。


「この魔方陣は、魔法使いであれば誰もが使える汎用的な魔方陣に文学魔法のエッセンスが加えられているね。魔方陣の外側に字が書かれている」


「あの、伊藤さん。文学魔法って……?」


「小説や詩といった文学作品を媒介にして発動させる魔法だよ。作品に込められた意味や想いを概念化して魔法を発動させるんだ」


 ということは、犯人は文学魔法の使い手ってことかな?


「わからないのは、この魔方陣はただ魔力を抽出する能力だけしか持っていないようなんだ。確かに久野神社、特に本殿は地理的に豊富な魔力が眠っていて、大規模な魔法を行使できるんだけど、ただ魔力を抽出するだけって、何がしたいんだ……?」


 すると、会議室の内線が鳴った。北山先生が応対すると、先生は複雑そうな顔をして受話器を戻した。


「2つ情報が入りました。まず、久野寺の地蔵の覆堂の裏に、久野神社の本殿に描かれた魔方陣と似たような物が発見されたそうです」


 つい先日行ってきたばかりの場所だ。しかも本堂があった場所。僕は魔法について詳しくないけど、魔力が溜まってそうな感じがする。


「もう1つは、雨月君の意識が戻ったそうです」


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