博物館盗難事件
「石田君、雨月君、来て貰ってありがとうございます」
6月に入ったある日、僕と雨月は北山先生に『依頼室』へ呼び出されていた。
つまり、バウンティハンターとして依頼をする、ということだ。
「どんな内容かは、雨月君ならご存じですよね?」
「ええ、大体予想できます。情報提供元はうちの家ですから」
どうやら、今回の依頼は雨月の家の誰かが事件の手がかりをつかんだので、そのサポートを僕達にやって欲しいらしい。
「これは石田だから話すんだけどな、俺の親戚の中に『予知夢』っていう特技を持った人がいるんだ。その名の通り、近い未来の出来事を断片的に夢に見る特技だな。
まぁ、断片的だしいつ予知夢を見るのか運次第なところがあるから、自分でコントロールできないのが欠点らしいけどな」
なるほど。話だけ聞いてるとなんともオカルトチックだが、特技による予知夢だから一応信憑性があるって事か。
まぁ、断片的だから予知夢を元に完全な対策を取るのは不可能っぽいけど……。
「少し話がそれましたが、雨月家から提供された情報によると、今月中に『久野歴史博物館』で展示品の盗難事件が発生すると出ました。何が盗まれるかはわからなかったそうですが……。
なので、お2人には博物館の警備に協力して欲しいんです」
「まぁ、うちから出た情報ですからね。俺も参加するのが筋でしょう」
「警備の仕事は初めてですが……ぜひやらせてください」
こうして、僕達は博物館の警備依頼を受けることになった。
翌週、僕達は久野歴史博物館で警備に当たった。
歴史博物館を警備するついでに、ここ久野市の歴史についてちょっと説明しておこう。
久野市の起源は平安時代まで遡り、『久野家』という貴族家が開いた荘園が始まりだとわかっている。
この久野家、自分の事は自分でやらないと気が済まないタチの人が多かったらしく、荘園管理も自分たちの手で行っていたようだ。
そのため江戸時代の参勤交代のごとく、ほぼ年1回のペースで荘園と京を行き来する生活をしていたらしく、その影響からか貴族として出世することはあまり無かったらしい。
その代わり荘園経営は円滑に進み、経済的には裕福だったそうだ。また、久野市に久野家の重要な資料が数多く残る結果ともなった。
久野歴史博物館の収蔵品の大半が久野家関連の物であるのも、そういった経緯があるからだ。
この博物館には名物となる収蔵品がいくつかあるが、全国的に知られている物は『
これは、久野家当主の1人である『久野将光』が直筆で書いた短歌の短冊の事で、複数存在している。その短冊をまとめて『久野将光歌集』と命名されている。
この短冊、すでに表面が炭化していて真っ黒になり詠めなくなっているが、X線を使えばハッキリと読み取れており、歌の内容も完全に解読されている。
なお、久野将光は現代ではある意味有名になっている人物だ。
実は彼、数え25歳の時に数え12歳の妻を迎えている。満年齢に直すと、23歳の男が10歳の少女と結婚したのだ。そのため、現代では『ロリコンの星』として妙な知名度を得ている。
なお注釈しておくと、平安時代は男子15歳、女子13歳で結婚が認められていた。しかし将光の時代はそんな法を無視し、結婚年齢がドンドン低年齢化していった時代で、将光の妻の年齢でも結婚するのは不思議ではなかった。
それでも、10以上も離れている年齢差での結婚は珍しいとは思うけど。
ちなみに『久野将光歌集』は、ほとんどが妻に宛てた歌である事がわかっている。将光は相当な愛妻家であったらしい。
『石田、そっちの様子はどうだ?』
「今のところ、異常は無い」
今回警備に参加したバウンティハンターは、通信機を支給されている。事情を知らない人には音声ガイドを装着しているようにしか見えない。
現在、僕と雨月は目で見える位置にいるが、仲間だとは思われない距離を保っている。
「雨月の方は?」
『こっちもさっぱりだな』
「そういえば、盗み出す手段とか何を盗んでいったのかとかはわかってる?」
『いや。どうも予知夢では、盗まれたことに気がついて騒ぎになっているシーンしか見れなかったらしい』
つまり、全く手がかりが無い。警備対象は博物館全てなのだ。
だから、とにかく人手が必要なんだ。
とにかく自分の持ち場を警戒することに集中しようと思ったその時、僕はある物を見てしまった。
「こ、これは……」
『どうした、石田!?』
「ショーケースの中から……腕が出てきた……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます