告白
金章学園に入学してから、休日の使い方ががらりと変わった気がする。
どう変わったかというと、女子の姿で過ごすことが多くなった。
「さーて、今日も色々試していきますかー」
女子の姿で何をしているかというと、かわいさの研究だ。
様々な服を試し、メイクを試し、髪型を試す。
もちろん下着にもこだわる。シンプルなものや子供っぽい物から、アダルトな感じのものまで幅広く。
あまり高すぎる物を購入しなければ、高校生にしては金銭を気にする必要はほぼ無い。バウンティハンター活動で報酬を得ていて、バイトしている高校生よりも稼いでいる。
まぁ、その代わり常に命の危険が付きまとうけど……。
「うーん……今日は調子が乗らなかったなー」
かなりかわいく仕上がったときは、自分自身に興奮を覚える。そのまま自分で慰めてしまうこともままある。
自分の特技を得たことで、男女両方の感覚を得ることが出来たし、そういう自分の身体がジグソーパズルのピースのようにガッチリはまる感覚が脳内で感じられるのだ。
まぁ何が言いたいかというと、男子にも女子にもなれるこの身体と自分のアイデンティティーがものすごく合うってことだ。
そしてもう一つ。
「これも、恋って言うのかな……」
鏡に映っている自分が、自己肯定感とはまた違う次元で好きなのだ。
ある日、学校の屋上で雨月に呼び出された。
「急に呼び出してすまない。実は、石田に告白したいことがある」
「告白?」
「ああ。単刀直入に言おう」
雨月は深呼吸すると、一気にこう言い放った。
「俺は石田が好きなんだ、恋愛感情という意味で。俺と恋人になってくれないか?」
なんと、ラブコメとかでよくある告白だった。『告る』ってヤツだ。
ただ、少し確認したいことがある。僕の特技のこともあるし……。
「それって、女子としての僕の事?」
「どっちもって言いたいんだが……どちらかというと男子の方のお前だ。正直に言うよ、俺はゲイだ。男子を好きになる男子なんだ」
衝撃の告白だった。それと同時に、この場でどう返答すればいいか迷いが出てくる。
もしかしたら、雨月の事を傷つけてしまうかもしれないから。
「石田には2度も助けられたよな。特に盗撮犯――実際はスキミング犯だったけど――から俺を守って貰ったとき、石田は頭から血を流してでも俺を助けてくれたよな。
そんな姿を見て、かっこいいって思ったし、ときめいたんだよ。だから、勇気を出して告白した」
雨月の目は、真剣そのものだった。覚悟が見て取れた。本気で僕と恋をしたいって肌で感じられた。
……ああ、これは僕も、真剣に返答しなければならない。
「雨月の真剣な熱意は伝わった。けど、僕は雨月の想いを受け止められない」
「そうか……そうだよな……」
「でも、雨月は勇気を出して自分の事を話してくれた。だから僕も、自分の事を話すよ」
そして僕は、自身の事について語り始めた。
「雨月は、ナルキッソスの話を知ってる?」
「ああ、ギリシャ神話だろ? 水面に映る自分に恋したっていう。『ナルシスト』の語源になった話だな」
「僕はそのナルキッソスなんだよ。前から他人に恋愛感情を抱けなかったけど、特技が発現してから気付いた。
自分でかっこいい、かわいいと思う身体になれるし、ファッションとかメイクなんかが上手くいって鏡を見るとさ、胸が高鳴るんだ。雨月が言った『ときめく』ってやつかも。
だから、僕はこれからも他人に恋愛感情を抱けないと思う。この心に名前を付けるんだったら、神話の話に近いナルシスト、『原始的なナルシスト』とでも言うのかな?」
「……そうか。自分自身が恋愛対象なのか」
雨月がそう漏らすと、どこか納得したような顔をした。
「そうだ、これだけは言わせて。雨月は恋愛対象として見れないけど、間違いなく友達だし、最高の相棒だと思ってる。雨月と一緒なら、どんな依頼だって達成できるはずさ」
「そうだな。それは、俺も同感だ。これからもよろしく、『相棒』」
そして、僕達は硬く握手した。これからも変わらぬ友情と、背中を預け合う相棒であることを誓って。
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