電磁感応

 サウナ店の更衣室に到着すると、犯人の男はすでにロッカーから財布を取り出していた。

 そして、財布の中から何かを取り出し、指先でそれを撫でていた。


「動くな。バウンティハンターだ」


「とりあえず、今のところ盗撮と窃盗の容疑がかかっている」


「なんですか、急に。証拠は?」


 往生際悪く逮捕を免れようとする犯人だったが、僕は事実を述べた。


「君が仕掛けたカメラ、数日前から気付いていた。盗撮犯を捕まえるためにわざと見逃し、監視カメラを設置しておいたのさ。もし君が不服を裁判所に申し立てても、こっちには証拠がある。どっちにしろ逃れられない」


「クソッ!」


「わかったら、俺達と一緒にご同行願おうか」


 雨月が犯人の腕をつかみ、僕達はサウナ店を去ろうとした。

 でも、この時点で僕達は見落としていた。盗撮カメラは女子更衣室にもあったことを。それが何を意味していたのかを。


「そいつを放せぇ!!」


「雨月、危ない!!」


 死角から突如として女が現れ、手に持ったスパナで雨月に殴りかかってきた。

 僕はとっさに雨月と女の間に割って入り、女の攻撃に合わせて全身の筋力を強化。女の攻撃を耐えしのいだ。

 そしてスパナを振り下ろして隙だらけになった女を組み伏せ、逮捕する。


「よくよく考えてみたら、カメラは女子更衣室にもあった。つまり、カメラを怪しまれずに設置し、なおかつ怪しまれずカメラを確認できる存在が居た。要は女性の共犯者がいたんだよ」


「そんなことを考えられないなんて、俺達もまだまだだな。それよりも石田、お前頭は大丈夫か?」


 実は、女からスパナ攻撃を受けたとき、よりにもよって額に攻撃が当たってしまった。

 額は筋肉が少なく、せっかく強化した筋肉の意味があまり無くなってしまったのだ。

 そのため、額から血を流してしまった。


「意識がもうろうするとかは無いけどさ。とにかく、こいつらを早く連行しよう。病院に行くのはそれからだよ」




 後日、警察の捜査で真実がわかった。

 あの男女2人組の盗撮犯は、まず盗撮カメラでロッカーの暗証番号を確認。そしてロッカーの中から財布を取り出し、クレジットカードや銀行カードを抜き出す。

 そして抜き出したカードの情報を抜き取り、暗証番号を打ち込んで決済システムにアクセスし好き勝手に買い物や預金の引き落としを行う。なお、暗証番号はロッカーに設定された番号と同じ設定にしている人が多いので、かなり簡単にカードの暗証番号は推測できる。


 つまり、あの2人は盗撮犯では無く、カードから情報を不正に抜き取り他人の金を下ろしたり買い物に使ったりする、スキミング犯だったのだ。

 しかも、スキミングに使うカードの読み込み装置は女だけしか持っていなかった。男の方は『電磁感応』という特技を持っていて、電磁気を感じ取ったり放出できたりするらしい。

 男はカードを抜き取ると、特技を使ってカードの磁気を読み取る。その後自宅に戻り、読み取った磁気を再現してスキミング装置に放出。安全にゆっくりとカード情報にアクセスできると言うわけだ。


「見事に石田の推理が当たったな。ところで、頭の方は大丈夫か?」


「何針か縫うことになったけど、別に問題無いよ。すぐにでもバウンティハンターの活動に戻れる」


 さて、女にスパナで額を殴られた僕だが、何も知らない人が見たらびっくりするぐらい出血していたにも関わらず命に別状は無かった。

 傷口を縫う事にはなったけど、後遺症とかが無くてよかったと思うことにする。


「僕の特技、骨も強化できる可能性があるんだよね。骨格って男女で違うからさ、もしかしたら応用で骨をある程度強化出来るかもしれない。そしたら、もっと頑丈な防御力を得られるかもしれないんだ」


「そうか……。そういえば、俺がお前に助けられたの、2度目だな」


「そっか。確かマネキンに襲われたときに助けたんだっけ」


 初めてのバウンティハンターの活動で痴漢を追い詰めたとき、隠していたマネキンが飛び出して雨月に襲いかかろうとしていた。

 それを僕が撃退したんだよな。


「だからさ、今度はその……なんかあったら……お前を助けられるようになるぜ!!」


 雨月は顔を真っ赤にしながら、僕に向かって宣言した。


「うん。バウンティハンターは助け合ってこそだからね!」


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