隠された世界

 ショーケースの中から腕が出てきた。

 よく見ると腕の根元の空間が歪んでいるように見え、そこから腕を出しているようだ。


「こうしちゃいられない!」


 僕は腕の筋肉を瞬間強化。頑丈なジョーケースをぶち破り、腕をつかんだ。

 だがしかし。


「……え?」


 空間の歪みから紙のようなものが飛び出すと、なんと僕の目の前で爆発した!


「ウッ!?」


 爆風は小さかったものの、僕は思わず捕まえていた腕を放し、顔面を守るようなポーズを取ってしまった。


「石田、大丈夫か!!」


「雨月、僕の方は心配ない。でも、まんまと逃げられた……」


 その後、この騒ぎで博物館内は一時騒然となったが、こういう事態を想定していたバウンティハンターによってパニックを収拾。そして博物館は臨時休館となった。

 臨時休館中に行われた捜査で、盗まれたのは『久野将光歌集』の短冊1枚であることが判明した。


 なぜ、犯人は久野将光歌集を狙ったのか。それはわからないが、ヒントとなる情報が一部の人達にだけ明かされることになった。




 数日後、僕と雨月は呼び出しを受けていた。


「てっきり学園かと思ったけど、久野市のバウンティハンター協会なんて……」


「しかもここ、厳重なセキュリティ対策がされている会議室だぜ?」


 なぜか金章学園の依頼室ではなく、バウンティハンター協会・久野支部の会議室に呼び出されていた。

 しかもここ、雨月によればセキュリティが厳重な部屋らしく、重大事件の捜査会議なんかに使われるような場所らしい。


 しばらくして、男女2人組が入室してきた。

 1人は北山先生だけど、もう1人の男の人は誰だろう? 北山先生と同年代っぽいけど……。


「お2人とも揃いましたね。では始めますが、1つだけ注意を。これから2人に話すことは、トップシークレット中のトップシークレット。本来バウンティハンターの中でもその腕前・信用性共に最高ランクと認められた人にしか開示されない情報です」


「あの事件に、そんな重要な秘密があったって事ですか?」


「そうですね。正確に言えば博物館から展示品を盗み出した方法と、石田さんに攻撃した方法が機密事項に該当します。お二人はそれを間近でハッキリと見てしまいましたので、例外的にお話することになったと協会の上層部が判断しました。

 では、こちらの方からお話ししていただきます」


 すると、北山先生と一緒に入ってきた男性が口を開いた。


「初めまして。伊藤 箕六みろくと言います。職業は、『魔法使い』をやっています」


 ……ん? 魔法使い?


「君達は魔法をおとぎ話だと思っているかもしれない。でも、実在するんだ」


「私も初めて知ったときは驚きました。まさか魔法が現実に存在するなんて思ってもみなかったので」


 なんと、魔法は本当にあるらしい。まだ思考が追いつけてないけど……。

 それに北山先生も最初から知っていたわけではないようだし、本当に一部の人しか知らないらしい。


「魔法界って、ある種の神秘主義が基本的な思想だからさ、とにかく世間にバレないようにしているんだよ。お寺とか神社で撮影禁止の場所とか儀式があったりするでしょ? あれと似たようなものさ」


 だから、魔法のことを知らない人が多いと。


「それで魔法の説明をするけど、魔法って言うのは簡単に言うと『概念の抽出』だよ」


「概念の抽出……?」


「そ。例えば、自分の右手に持っている『はさみ』。これには物、特に紙に対する『切断』をするという概念がある。これを抽出すると――」


 そう言うと伊藤さんは、左手に持っていた紙に向かってはさみを指揮棒のように振った。

 そしたらなんと、紙がひとりでに切れてしまった! しかも手で破いた感じでも無く、明らかに刃物で切断した切れ方だ。


「これが、魔法の基本的な知識さ」


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