第2話 中学校時代
中学生となり、とあるH中学校へと入学した私は幼い頃から続けていた剣道の腕を生かすため、剣道部へと入部致しました。
入部して以降の2年間、私の中学校生活はまさに、順風満帆なものでありました。剣道の地区大会では賞を取り、決して優れた腕を持っていた訳ではありませんが日々積み重ねて来た努力が顧問の教師に認められ剣道部の部長の座へとつき、部活動の後輩には私に思いを寄せてくれる方が現れました。
私が中学三年となった頃、実に危険極まりない、コロナウイルスはまるで赤子の手を捻るかの様に容易く世界を一変させました。
此れ迄毛嫌いしていたマスクの着用が義務化され、人の顔は目元のみしか認識できなくなりました。此れが災いし、小心者である私は人見知りの症状がより一層深刻化してしまいました。あまり親しくない
丁度、中学三年生となり半年程経った頃でありましょうか、進路について考えるようになった私はとあるE塾へと通うようになりました。最初の頃は塾長が笑顔を振りまきながらも色々と教えてくれたのですが…其れらは全て、新しい
***
とある日、いつもの様にE塾へと授業を受けに行きますと塾長が私を応接室へと呼び出しました。私は臆病者であるため、空気を読むのは他人様よりも秀でていると自負しておりました。其のため、塾長が気を荒立たせていることが私には手に取る様に分かるのでありました。
「失礼します…」
「嫌だなぁ」とは思いながらも、戸をコンコンコン…と三回程ノックし私は応接室の中へと足を踏み入れて行きました。すると、室内の椅子には腕を組み、私の成績表を鋭い眼差しで
「あぁ、座って」
塾長は私を正面の席に座らせました。そして、私の成績を私に見せつけながらも塾長は問い掛けてきたのです。
「此れ見てどう思う」
高圧的な部屋の空気に押しつぶされ、私の頭の中は真っ白になってしまいはっきりと答えることができませんでした。
「せっ…成績が……低いと思います」
決して勉強していないわけではありません。ですが、要領の悪い私はいくら努力を重ねましても頭は良くならず、成績に此れっぽっちも反映されないのです。思うように成績が上がらない私に苛立ちを覚えていたのです。
「なぁ…本当に進学する気ある?」
塾長からの問い掛けに、私はすぐさま答えました。
「はっ、はい……っ!」
「じゃあどうするの…」
「え、あっ…いや……あの………」
冷静に考えてみれば、「此れ迄以上に勉強を頑張る」と答えれば良かったのでしょうが、此の時には人見知りを更にこじらせ、目の前で苛立っている塾長の眼差しに
「どうすんだよ、なぁ…っ!!!」
塾長からの威圧にこちらは限界を超えてしまい、私は到頭みっともない涙を流し出してしまいました。併し、そんな私を塾長は迷惑そうな表情を浮かべながらも私を
其の後、なんとか其の場を切り抜けることができました。併し、授業を終えましても私は夜遅く迄家へと帰宅することが出来ませんでした。塾長に自習を強要させられたのです。大勢の教師や生徒が次々と先に帰宅する中、私は筆記具を手にし、歯を噛みしめながらも問いを解き、
「気を抜くな、忘れるな、思い上がるな、余計なことを考えるな、感情を殺せ、人にとやかく云うな、喋るな、歯向かうな、人のものにすがるな、甘えるな、希望を持つな、周りの空気を常に読め、人の明るい面を見るな、自分を嫌え、何も望むな、全部自分が悪い、楽しく生きようとするな、認めてもらえると思うな、理解しようとするな、迷惑な存在だ、味方なんて居ない……」
此の様な呪いの言葉が次から次へと頭の中から湧き上がり、死にたいとさえ思う様になっておりました。そして、行き場を失った苦しみを晴らすため、私は己の髪を握り絞め、ブチブチと引きちぎり、己を痛めつけることで
「又、あの顔か……」
塾長の顔…金蔓用のあの顔を見ただけで、私の心はおかしくなってしまいそうになっておりました。
時間が時間であったため、私は父と共に帰ることを許されました。
「大丈夫か…何かあったら相談してくれても良いんだぞ」
暗い夜空の下、帰り道の最中、父からの声掛けに私は唯々「大丈夫、大丈夫…」と呪いの呪文を唱えるかの様に答え続けました。そして、両親に
***
己が髪を
「嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……」
E塾から出された宿題をしている最中、私は到頭一線を越えてしまったのでしょう…教科書や筆記用具を見るだけで、私の心は深く沈み、視界がじんわりと曇って行き、いつの間にか私の瞳からは生暖かい涙が溢れ出ておりました。私の心はズタズタに壊れてしまっていた様です。行き場の無い、耐えがたい苦痛に翻弄させられてしまった、私は己が髪を搔き毟り、鉛筆を次々と真っ二つにへし折り始めました。
「どっ、どうしたの!大丈夫…!?」
私の
E塾を辞めたことによって時間が空き、お付き合いしている後輩の女性と会えるようになった私はちょっとしたプレゼントを買いますと、電話にて「久々に会おう」とメールを送ろうと致しました。併し、其の時でありました…私よりも先に、お付き合いしている後輩の女性からメールが送られてきたのです。
私は久々のメールにソワソワしながらも内容を確認致しました。
『先輩…私達、別れませんか……』
此れが、久しぶりに彼女から送られてきたメッセージの内容でありました。すぐさま理由を聞きますと、彼女は私の人見知りで、内気で、奥手な面に心底うんざりしていた様でありました。彼女からの別れ話を……私は彼女からの別れ話を承諾致しました。「もう、どう足掻いても彼女は私に振り向いてくれない。全ては彼女をほったらかしにしてしまっていた私が、深刻な人見知りを何時迄も直せずに居た私が悪いのだ…」そう私は考えたのです。
お役御免となり、行き場を失ってしまった買ったばかりの贈り物を私は悔しさのあまり睨みつけながらも
こうして私は
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