第1話 小学校時代

 S小学校にて、小学1年生の頃、私は活気に溢れ、行動力を持て余す童でありました。友人は決して少なくはなく、様々な人達と話す様なことは朝飯前でありました。此の童の有様こそが、基本的な人格が形成される前の純粋無垢な私の姿でありました。

 私のクラスには学年で知らぬ者が居ない程に名の知れ渡った一人の女児がおりました。其の者は何故そんなにも名が知れ渡っているのかと申しますと、其の女児は大層我が強く、世間で言います所の所謂いわゆる、仕切り魔と云う者でありまして、数多くの配下を控え、支配することに娯楽を覚えておりました。

 「顔が気持ち悪い、こっちに近寄らないでくれる」

 こう言った道徳の欠片も無い言葉を女児はケタケタ…と笑いながら、私の容姿をさかなさながら遊戯の様に虐めを行うのでありました。毎日、毎日…毎日です。

 たちが悪いことに、当然ではありますが女児は未だ頭が幼く、彼女は己が悪い行いをしているという自覚が此れっぽっちもないのです。そして、女児が其の様な趣味の悪い遊戯を行うのは付近に大人が…つまりは教師がいない時のみでありました。此れでは、誰も彼女の悪趣味な遊戯を止める者が現れません。     

 彼女が悪質な遊戯にて娯楽を得て行く中、彼女と同じく未だ幼かった私は己のことを「容姿が醜く、他人様ひとさまを不快にさせる存在である」と何の抵抗も、違和感もなく認識する様になるのでありました。

***

 とある休み時間の最中、私は校庭にて友人達とかけっこをして遊んでおりました。勿論、其の時の私は守るべき節度や言いつけなど全て心得ておりました。しかし、度が過ぎない程度で遊びを楽しんでおりますと遠方の校舎の方から一人の見回りをしていた教師が物凄い剣幕でこちらへと声を掛けながら歩み寄って参りました。

 「君、今走っちゃいけない場所を走っていたよね?」

 見回りをしていた教師からの問いかけに私は小首を傾げました。と申しますのも、此の時の私はちゃんと節度や言いつけを守り、走ってはいけない区域では走らないようにして遊んでいたため、もの申されるいわれは無かったのです。恐らく、私では無い他の人と見間違えでもしたのでしょう。しかし、教師の自信は鋼の様に硬く、決して己が意見を曲げることはありませんでした。

 「何かの間違えです。私はちゃんと言いつけを守りながら遊んでいました」

 いくらそう訴え続けましても、私の身に掛けられたありもしない容疑を晴らすことは敵いませんでした。そして、到頭、長期の口論に心が折れてしまった私はつい、「ごめんなさい」…と呟いてしまったのです。すると、どういうことでしょうか、先程迄怒っていたはずの教師はたちまちこちらに和やかな笑顔を見せ、私に許しを与えてきたのです。まるで、魔法の呪文でも唱えたかの様でありました。そして、此の時、単純な思考しかできなかった私は次の様に悟るのでありました。

 「自分の意思を発現すると必ず何かしらのもめ事が起こる…そして、もめ事が起こる度に私は悪役にされてしまう……」

 此の悟りがきっかけに、私の基本的な人格が構成されるのでありました。そして、此れ以降、私は自分の意見を発言することを恐れる、臆病者となってしまったのです。

 こうして、私は粗末な、小学校生活を終えるのでありました。

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