KAC第5回『筋肉』

綾野祐介

第5話 筋肉

「痛ってぇ。」


 気が付くと足に激痛が走った。


「なんだ?」


 俺は床に転がっていた。自分の部屋だ。


「やっと目覚めましたか。」


 そこに見知らぬ男がいた。


「誰だ?それより足が痛い。何をした?」


 足の痛みは尋常ではなかった。手は後ろで拘束されている。


「足の腓腹筋を筋断裂させていただきました。暫らくは歩けないかも知れませんね。」


「どういうつもりだ。」


「僕は筋肉フェチでしてね。どこをどう苛めれば断裂させられるかは熟知しているのですよ。」


「そんなことは聞いていない。目的は何だと聞いているんだ。」


「それはこちらが聞きたいのです。そのために来たのですから。」


「どういう意味だ。」


 見覚えが無いと思ったが最近見た気がしてきた。


「彼女をどうしました?」


「彼女?」


「この部屋で会った時に来ていた彼女ですよ。」


 そうだ、圭子が来た日に部屋に入って来た奴だ。

 

「圭子のことか。俺も知らない。戻ったらもう居なかったんだ。」


 それは本当のことだった。自分でも本当に判らないのだ。あの日以来圭子とは連絡が付かない。そして、梨沙子とも連絡が付かなかった。


「確かにあの時彼女は部屋に居なかった。ただ直前まで部屋に居たことは確かだ。では彼女は今何処に居るのですか?」


「知らない。本当だ。それより足が痛くて耐えられない。拘束を解いて病院に連れて行ってくれ。」


「知らない。あなたは僕が欲しい情報を知らないと言うのですね。」


 こいつは狂っている。


「お前は一体圭子の何なんだ?」


「何でもありません。彼女は僕のことを知りませんよ。ところであのぬいぐるみは何ですか?あの日抱えていましたよね?」


「あれはいつのまにか部屋にあったものだ。圭子が居なくなった時に二つになった。」


「まさか彼女がぬいぐるみになったとでも?」


「ありえない。でも、そうなんだ。」



 俺はなんとか拘束を解いて救急車を呼んだ。ぬいぐみがまたひとつ増えていた。

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KAC第5回『筋肉』 綾野祐介 @yusuke_ayano

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