強化するのは筋肉だけでお願いします

MURASAKI

この世界で、そのうち無双できそうです?

 大きな大胸筋もいいけど、やっぱりトキメクのは三角筋から上腕三頭筋にかけてかな。肩メロンな人が好みのタイプ。パツパツのTシャツ破って欲しい~!


 そう公言し、男性の筋肉を遠目から堪能するため有名なマッスルジムに週五で通い、己の筋肉を育てることにも余念のなかった“わたし”こと関 仁弓ひとみ(二十六歳)は、己の筋肉に多大なる自信があった。

 ベンチプレスで八十キロくらいは余裕で持ち上げられるし、レッグプレスも百二十キロくらいならラクラク上げられる。とにかく自分の筋肉を信じていたし、強いことには自信があった。


 だから、ネコチャンが轢かれそうになっているのを黙って見ていられなかったの。


 危ない!と思ったら、車だったはずが馬車になってるし。ネコチャンのはずが似たような全然違うモフモフだしで、もうすぐ轢かれる寸前で何とかなったわたしは、その馬車の超イケメンあるじに拾われた。

 主から聞いた話、異世界転移はこの世界では当たり前に誰もが知っている現象なのだそうだ。しかも異世界人は莫大な富と名声の象徴なのだそうで、見つけたら手厚く保護するのが通例らしい。


 数日経ち、わたしはこの世界に絶望する。

 筋肉のきの字も感じられないくらい白い肌とすらりとした手足に色とりどりの髪色、見た目だけは超絶イケメンが揃っているこの世界には、筋トレという概念が無い。そして、筋肉を愛でるというわたしの日課は勿論できない。


「あああああ! 筋肉が、見たい!」


 どいつもこいつも、何であんなに細くてヒョロヒョロなの!? 筋肉を見たい、筋肉に触れたい、筋肉が足りない! 筋トレのすばらしさを語っても、みんな顔にハテナをつけて聞いてくれない。だから、わたしは自分を鍛え上げる事に集中した。



 ビリィ!


 また、ドレスを破ってしまった。誰も筋肉を鍛えたがらないものだから、わたしは自分自身を追い込み理想の姿を手に入れた。



 違う、そうじゃない!

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