第32話 聖女の正体
「この人、私のおばあちゃん!」
「なんだと?! 愛梨沙のお祖母さんって行方不明になったって……まさか……」
「うん! 多分おばあちゃんも聖女召喚されたんだ! おばあちゃん! 私! 孫の愛梨沙だよ! ねえ! 聞いて!」
「駄目です愛梨沙様! 全く反応がありません! ここは一旦引きましょう!」
「駄目です! 放っておいたらまた魔物を生んでしまう!」
せっかく繭を壊したのに、また黒い靄が集まって繭になろうとしてる。神様が話しかけても、私達が声をかけても無反応。
これって、ニックに助けて貰った時の私と同じだ。あの時の私は、ニックの声しか届かなかった。
……それなら……
「おばあちゃんなら……」
私は、ありったけの力を込めて幻影魔法を使った。アルバムで見た、昔のおじいちゃんはかっこよかった。おばあちゃんと一緒に写ってる写真が、おじいちゃんが死ぬまで部屋に飾られてた。
おじいちゃん、おばあちゃん見つけたよ! いつも言ってたよね。おばあちゃんを見つけたら、真っ先にこう言うんだって。
「桔梗……愛してるよ」
私は聖女。魔力は無限だ。ありったけの力を込めて、何度も何度も倍掛けしておじいちゃんの若い頃の幻影を作り出す。幻影だからって舐めんなよ。ちゃんとおばあちゃんを抱きしめられるんだから!
「いつき……さん……? 会いたかった……」
「時間がかかってごめん。ずっと探してたんだ。もう大丈夫。だから安心して」
おばあちゃんに、安心魔法をかける。おばあちゃんを纏っていた黒い靄が、完全に消えた。
「桔梗……聖女なんて、なりたくなかっただろう? やめたいと心から望めば聖女をやめられる。私が守るから、大丈夫だ」
おばあちゃんは、私と同じ。聖女をやめたいけど、やめたらこの世界の人達に何をされるか分からない。聖女だから……この世界に存在する価値があるんだと思ってる。
けど、大好きなおじいちゃんがいれば別だ。
「樹さんがいるなら大丈夫ね。元々聖女なんて望んでなかった。やめるわ、聖女」
あっさりとしたおばあちゃんの言葉。その瞬間、パリンと空間が割れて、おばあちゃんを覆う靄が全て消えた。
「おばあちゃん……! 良かった……! 神様、もう大丈夫?」
「うむ。桔梗はもう聖女ではない。二度と魔物は現れぬ」
そう神様が言ったのに、魔物が現れた。あっという間にニックとルネさんが倒したけど。あれ? 消えない。って事は……。
「これはモンスターだな。素材もあるし、持って帰ろう」
ニックがモンスターを無限収納にいれると、ようやく正気に戻ったおばあちゃんが大声で騒ぎ出した。
「ちょっと! ここどこよ! あんた達は、誰?! 樹さんは何処よ!!!」
おじいちゃんの幻影、過去の記憶を辿って作るから長持ちしないみたいでもう消えちゃったのよね。
ルネさんがおばあちゃんに説明してくれて、ニックが聖女召喚をした事を謝罪する。ニックは悪くないのに土下座までしてくれた。この人はずっとそうだ。私はニックがいればこの世界で幸せに生きていける。
けど……おばあちゃんは……。
「そうかい。アタシにそっくりだねぇ。良かったねぇ。あの子、結婚出来たんだね。愛梨沙……でいいのかい?」
「うん! 孫の愛梨沙だよ。おばあちゃん、会いたかった。おじいちゃんからいつも話を聞いてたよ」
「そうかい。さっきの樹さんは、愛梨沙が見せてくれた魔法なんだろう? アタシは魔法とやらが出来なくてねぇ。ずいぶん文句を言われたよ」
「神殿の者達がとんでもない事を……申し訳ありません。そうだ、よろしければこちらをお召し上がり下さい」
ニックが無限収納から美味しそうなスープを出してくれた。私や神様、ルネさんにも配ってくれた。
「愛梨沙、テーブルとソファを出してくれ」
「オッケー! 任せて。またモンスター来たら面倒だし、結界を使うね」
結界の中に家具を出して、みんなを座らせてニックがくれたスープをのんびり飲む。ルネさんが綺麗な顔で呆然としてるけど、スルーだ。
「……なんだこれ……家具が魔法で……? 色々ついていけないんだけど……」
「ルネ、諦めろ。愛梨沙はいつもこうだ」
「……これ、簡単に受け入れるって……ニックって凄かったんだね……知ってたけど……。まぁいいや。僕はのんびり話を聞いてるし、テキトーに話してよ。お邪魔なら帰るけど」
「アタシは別にどっちでもいいわ」
「オレもだ」
「我も構わぬぞい」
「……みんなさ、雑だよね。神様まで。まぁいいや。愛梨沙様がいいならここにいる」
「結界に入れた時点で、ルネさんをがいて構わないと思ってますから大丈夫ですよ。シスターコリンナなら、絶対入れないけど」
「あんなクズと一緒にしないでくれる?!」
「ですよねー。失礼しました。とりあえずおばあちゃん座って。お腹すいたでしょ? もう聖女じゃないから、食べないと死んじゃうよ」
「そうだね。頂こうかね。その前に……教えておくれ。樹さんは、どうなったんだい?」
おばあちゃんは、覚悟を決めた目をして私に問いかけた。
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