第25話 腹を括ろう

神様も落ち着いて、今後の事について話し合った。たまに発生する黒い靄が厄介だったけど、ニックがいれば大丈夫。それに、良い方法を思いついた。


私は、今後の目標を口に出した。


「聖女様を助けて魔物をなくし、神殿を潰す。これが目標だね」


「簡単に言うのぉ。それがどれだけ難しいか、理解しておるのかの?」


「してるしてる。特に神殿を潰すのは難しそうだねぇ。魔物の方は、発生源を探さないとね。神様、分かる?」


「……すまん。聖女を街から離すのが精一杯で……被害のない所に飛ばす事しかできなんだ。その時力を使い切って……何もできぬ神ですまぬ……」


「魔物がよく発生する場所を探れば、発生源はいずれ分かります。少しずつになりますが、オレが調べてきます」


「私も行く! 私が祈れば魔物は減るんでしょ?」


「愛梨沙は聖女だから、移動は難しいかもしれねぇ。なんか良い魔法ないか?」


「んー……じゃあ、幻影を置いておく?」


「幻影はすぐバレちまうだろ。懲罰の時に誤魔化すくらいならともかく……」


「半年……いや、一年かな。データを蓄積すればいけるんじゃないかな。もちろん、やな事は魔法で誤魔化すよ」


「それしかねぇか……。本当は今すぐ神殿を出て欲しいんだけどよ」


「そうしたいけど、それじゃ神殿は今の権力を維持したまま。そんなの嫌じゃん」


「ん? なんか作戦があんのか?」


「具体的な事はこれから考えるけど、今のままでいいわけない。あのさ、私の国に軒を貸して母屋を取られるってことわざがあるのよ。軒先で雨宿りさせた旅人がいつの間にか店の小間使いになり、最後は店の主人になる……そんな意味なんだけど」


「店、乗っ取られてるじゃねーか!」


「そうなの。良かれと思って親切にしていると、相手は調子に乗っていつの間にか自分の大切なものを取られている。そんな事にならないよう警戒心を持てって意味らしいんだよね。神殿の奴らのしてる事……まさにこれじゃない? 神様や、聖女の功績がいつの間にか神殿の功績になって、国王陛下すら対処出来ない権力を維持してる。でも、それは所詮ハリボテよ。人として正しい道を神殿の人達にお伝えする。それも聖女の仕事だと思わない? 破滅なんて、願わない。復讐したいとも思わない。だから黒い靄も出ない。私がやりたいのは、間違った事をしている神殿の人達を正す事。これは、聖女らしい正しい行いだと思わない? ね、神様」


「確かに……そうじゃのぉ。なんだか裏技のようじゃが、呪いは出ておらぬの」


ニックのおかげだ。

彼が私を大事にしてくれるから、憎しみが消えて色んなことを考える余裕ができた。


元々、考えるのは好きだし得意だ。


友達と思考推理ゲームをしたり、プログラムを組んでゲームを作ったり、心理学の勉強もしていた。


腹を括ろう。


もう私はこの世界で聖女として生きていくしかない。ニックだけは私が聖女じゃなくても良いって言ってくれる。それで充分だ。


魔物がなくなれば、聖女は不要。そうすれば、きっと私は聖女を辞められる。ちゃんと調べてないけど、今までだって聖女は三年の任期があったんだから絶対に辞める手段がある。


けど、今は駄目だ。私が聖女を辞めたら……神殿はまた聖女召喚をするだろう。


もう二度と聖女召喚をさせない。


私は聖女。それで良い。ニックが言ってた。聖女は国王陛下よりも偉いって。


……偉いなら、この権力をフル活用するわ。


まずは団長さんとダリスさんの時を動かして、今後の作戦を立てる。神様にも、少し神殿がおとなしくなるようにコントロールしてもらった。


シスターコリンナは、私が自分の言いなりだと思い込んでる。だからきっと油断してるだろう。


まさか神様からの指示が全て、私からのお願いだなんて夢にも思わない筈。


少しずつ……神殿の力を削ぐ。これは、私怨じゃない。神殿と、この世界の人々の為なんだから。

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