第24話 過去の聖女様
神様のお説教は、なんとかひと段落しました。なんていうか、本当にごめんなさい。これからは絶対、広範囲の魔法は使う前に神様かニックに相談しよう。
「良いか愛梨沙! 其方が魔法を使う時、特に! 大勢を対象にする場合は! ニックに必ず相談せぇ! 良いな! ニック、頼むぞ! この考えなしの規格外聖女をきっちり監督せぇ! 其方は愛梨沙の恋人なのじゃろう!」
「……恋人は保護者じゃないんだからさぁ……」
「なら其方にこの世界の常識が分かるのかの?! 我も聖女を介してしか世界を見れんのじゃ! 大抵の聖女は力が弱く、我は断片的に世界を眺めるだけじゃった! 我を呼び出せた聖女は一人だけじゃ! その聖女は、今も苦しんでおる!」
「どういう事?」
「愛梨沙にまとわりついた黒い靄、あれが危険なものであると説明したじゃろ?」
「確か、聖女の呪いでしたね」
「うむ。さすがニックじゃ。魔物が出るのは聖女が苦しんでおるからじゃ。我はとうに諦めておった。じゃが……やはり聖女が哀れでのぉ。愛梨沙のように規格外の聖女なら、救えないかと思ってな。どうじゃ?」
「そりゃ、そんなかわいそうな状態放っておけないけど……」
「今すぐは無理ですよ。魔物は街のすぐ外まで来ている。定期的に狩ってもすぐ増える。発生源が分かりません。おかげで、我が国は孤立しています。魔道具を介してしか、外交が出来ません。魔物のせいで壊滅した村もあります。幸い、みんな避難してきて死者は出ておりませんが」
「……え、そんなエグい事になってんの?」
「ああ、避難してきた人達の為に城下町を大きくして食料を作り、なんとか凌いでいる。聖女様が召喚されて祈って頂くとしばらく魔物の数は減るんだ。けど、何十年か経つとまた魔物が増える。そうするとまた聖女様が来る。それの繰り返しだ」
「結構ギリギリだね。それじゃ神殿に救いを求める人も多いの?」
「多いな」
「あんなとこ頼らなくて良いようにしたいんだけど」
「……だなぁ。神殿を潰すのは決定事項だ」
ニックが、悪い顔してる。そんな顔もかっこいいと思うんだから私もだいぶ重症だと思う。けど、今はニックの暴走を止めないと。
「今すぐは駄目だよ。頼ってる人がいるなら、潰しても絶対に神殿は生き残る。人の信仰心を舐めたら駄目。だからね……少しずつ、神殿を頼る人を減らそう。神様、魔物を生んでる聖女様は絶対助けるわ。けど、まずは魔物を減らす。私が祈ったら魔物が減るわよね? どういう理屈?」
「魔物は聖女が生んだ負の感情の塊じゃ。じゃから、他の聖女が魔物の減少を願うと減る。しかしの、なかなかゼロにはならんのじゃ。……それは聖女の苦しみが深いからじゃ。可哀想に、今でも魔物を生んで苦しんでおる」
「神様が助けてあげる事って出来ないの?」
「……実はの、聖女が魔物を生んだ時……彼女を街の外に転移したんじゃ。その時、我が持てる力のほとんどを使い切ってしもうた。人々は助かったが……聖女は助けられなかった。さっきニックが魔物で死者は出なかったと言っておったじゃろ? おそらく、ギリギリのところで聖女の良心が保たれておるのじゃろう。もし、愛梨沙が同じように魔物を生んだら、もう我にできる事はない」
聖女様、優しいなぁ。私なら良心なんて……そう思いかけたけど、目の前のニックを見て気持ちが変わった。
この人がいるなら、世界を愛せる気がする。
ニックは私を大事そうに抱きしめてくれた。あったかくて幸せだ。
「そんな事させませんよ。確かに魔物に襲われた人はいますけど、死者は出ておりませんね。オレも魔物を倒した事がありますし、怪我をした事も何度もありますけど、致命傷を受けた事はないですね」
「え、そんな都合のいい事ある?」
「モンスターならありえねぇ。魔物とモンスターの見た目は似てるけど、モンスターは倒したら素材が残る。魔物は、倒したらそのまま消えちまうんだ。魔物は生き物に対して攻撃する力が弱いんじゃねぇかって言われてる。家畜なんかは攻撃されないらしい。けど、魔物は建物を容赦なく壊す。村をぶっ壊して壊滅させた事もある」
「けど、人は死なないんだ」
「逃げるのを待ってから壊すんだよ。生き物がいたら破壊行動はしない。ただ、魔物の中にモンスターが紛れてる場合もあるんだ。だから魔物が人を殺すと思ってる人もいる」
「モンスターは世界中にいるの?」
「ああ。モンスターが村を壊滅させる事もある。その場合は、大抵人も家畜も全滅だな」
「人に危害を加えるかどうか……そこが境目か……」
「見た目が似てるから倒さねえと魔物かモンスターか分からねぇし、オレらみてぇに戦い慣れてる奴等はともかく、一般人には魔物も恐怖だ。しかも、モンスターは集団になる事は少ないけど、魔物は集団で現れる。魔物が国境を越える事はない」
「聖女様が恨んでるのは、この国の人だけって事か。魔物を生んでるって事は、聖女様は人を憎んでるって事でしょ? どんな扱いをしたのか知らないけどさ、シスターコリンナが骨と皮になっても祈りを拒否した聖女がいたって話してた。その人なんじゃないかな? 私はニックがいたから良かったけどさ、あんな扱いされたら人を憎んで当然じゃない?」
「……そうなのじゃ。三百年前に呼ばれた聖女が……神殿に虐げられての……じゃが……我を呼ぶ力はなくて……聖女を街の外に転移させて、神殿に聖女を慈しむようにと伝えて……それから五人の聖女が呼ばれた……今までは良かったのじゃが次第に我の力も弱まっておったようで……愛梨沙はあんな目に……」
神様が俯いて、泣き出した。
私とニックは神様をソファに座らせ、必死で慰めた。
神様でも、できない事はいっぱいあるんだね。
ずっと聖女様を助けたくて、神様は苦しんでたんだろう。私は、ニックがいてくれた。けどきっと……聖女様には誰もいなかったんだ。
いきなり知らない場所に連れてこられて、祈れって言われても困る。シスターコリンナみたいな人が過去にもいたんじゃないか。そんな気がする。
私は絶対に聖女様を助けようと心に決めた。私の気持ちが聞こえたのだろう。ニックが力強く私の手を握りしめてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます