第23話 甘い時間→お説教タイム

ニックと恋人になった私は、もう少しだけゆっくり話したいと我儘を言った。話せば話すほどニックは面白い人で、こっちに来てから初めて幸せだと思える時間が過ぎた。


時を止めてるから気にせずくっついて話せる。色々考えなきゃいけない事はあるけど、今は難しい事を考えたくない。


今は、好きな食べ物の話で盛り上がっている。


「愛梨沙の好きな食べ物はなんだ?」


「んー……あんまし好き嫌いはないけど、甘いもの好きだよ。アイスとかめっちゃ好き」


「アイス?」


「あー……こっちにないのかな? 冷たくて甘いんだけど……」


「氷菓子か?」


「そんな感じかな。牛乳とか生クリームってあるの?」


「牛乳?」


「牛のお乳」


「ものすげぇ高級品だな」


「マジで?」


「マジだ。オレは食った事ねぇ。買えなくはないけど興味がなくてな。特に、加工した濃厚な牛の乳は高い。ケーキなんかで使われてるけど、かなりの高級品だな」


「うへぇ……そうなんだ。濃厚な牛の乳って、生クリームかな? ケーキあるなら、食べてみたかったなー」


「なら、今度買ってこよう」


「え! 良いよ! 高いし!」


「……初めて出来た恋人に貢ぐ事すら許されないのか?」


「その言い方は、ズルい」


「なら、買ってきて良いよな?」


「……うん。なんかお返ししたいけど……私は食べ物作れないし……そうだ!」


ニックのお母さん、病気だって言ってたよね。治してあげれば良いんじゃない?


あーでも、ニックのお母さんだけ急に元気になったらまずいか。それなら、世界中の人を元気にしちゃえば良くない?


神様が降臨したんだしさ、神様のせいにしちゃえばいけるでしょ。


この時、私はちょっと……いやかなり考えなしだったと思う。

こんな世界クソ食らえと思ってたのに、ニックがいるならもっといい世界にしたいと思ってしまった。魔力が無限ならいける気がする。そう、自分を過信してしまった。


あ、いや、実際出来た。けど、相談なしにやるのはまずかったと思う。


「よし、じゃあお礼に魔法をするよ!」


世界中の人、みんなみんな、元気になぁれ!

そう思ったら、テレビに映ってる人達や団長さん、ダリスさんに、ニックまで……みんな眩しい光を放ち始めた。


「愛梨沙……、説明しろ」


ニックの声が、とてもとても怖かったです。ちなみに、まだ時は止まったままです。みんなの光は、消えました。よく分かんないけど、元気になってると良いな。そんな風に呑気に考えていたら、まずはニックに説明を求められました。


ニックに説明してるうちに、神様が動き出しました。


そして、現在。


私は神様とニックにめちゃくちゃ睨まれております。さっき恋人になったばかりなのにニックさん怖いです。そう言いたいけど、言ったらもっと怒られる気がします。


「規格外にも程がある! 勝手に世界中の人々を癒すなど何を考えておるのじゃ! 我もこのような奇跡は起こせん! 愛梨沙のイメージ力は強すぎる! いいか! 今回は我の奇跡という事にするが、今後は魔法の範囲を考えよ! 広範囲に魔法をする前に、我かニックの許可を取れ!」


神様、激おこ。勝手に神様のせいにしようとしてごめんなさい。


おかしいなぁ。普段は計画的に動くのに、こっちに来てから行き当たりばったりになってないか?


「……愛梨沙、次から緊急時以外は魔法を使う前にオレに説明しろ。いいな?!」


ニックは、静かに怒ってます。怒り方としては、一番怖いやつです。ニックだけは怒らせないようにしよう。私は心から謝罪した。


「はい。ごめんなさい」


「おふくろを心配してくれるのはありがたいけどな! 世界中の人を癒して愛梨沙は大丈夫なのかよ?! 魔力切れとかねえのか?」


おっとお!

私の恋人は最高ですか?!


最高だね!


つまりあれですよね、怒ったのは、私の事を心配してくれたからなんですよね?!


よし、これからはもっと計画的に動こう。紙とペンを出して……あー、ニックのまつ毛長いなあ。かっこいい。


「愛梨沙……オレの顔はどうでもいい。反省してねぇんならもっと説教するぞ」


「え……私また口に出してた?」


「聞こえるんだよ! 気を抜いた時とかオレの事を考えてる時は愛梨沙の感情が筒抜けなんだ!」


「ズルい! なんで私はニックの声が聞こえないのよ!」


「思考をコントロールする訓練をしたからな。オレ、一応騎士だから。心を読まれて敵につけ込まれちゃまずいんだよ。愛梨沙みてぇにポンポン使えなくても、心を読む魔法はあるんだ。儀式魔法か、生贄を捧げるヤベェ闇魔法使いにしか使えねえけどな。しかも効果時間は数分とかだしよ。それでも脅威だ。だから、対策を立てるんだよ」


「え、じゃあダリスさんにドン引きされたのって私が闇魔法使いと思われたから?」


「そうだな。あれは引いたんじゃなくて、愛梨沙を警戒してたんだ。すぐに誤解は解けたから謝っただろ?」


「……あれ、そんな意味だったんだ……ダリスさんに悪い事しちゃったかも」


「ちっ……気にしなくて良いよ。あんま他の男の話すんな。言っとくけどダリスは新婚だからな!」


おやおや、ニックさん嫉妬ですか?

やーん、耳真っ赤にして可愛い!


「……愛梨沙、聞こえてる」


「やば! 今のは聞かなかった事に……」


「いちゃつくなら後にしろ馬鹿者共!」


……結果、私とニックは神様に叱られた。


『解せねぇ。なんでオレまで……』


そんなニックの声が聞こえた気がするけど、華麗にスルーしてやった。

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