第20話 怒ってる人が増えた

「分かりました。そちらの少女は私が責任を持って養育します」


「ありがとうございます! よろしくお願いします! ね、それじゃアリサちゃん起こして良い?」


「待て! 其方の今後を考えねば、無計画に神殿に戻る事になるぞ!」


「あ、忘れてた。あはは、どうしよっか」


「……其方、自分の立場を理解しておるのかの?」


「んーと、私は聖女で、神殿の道具で、言う事聞かせる為にぶん殴って良い存在? 神様呼べるならもうちょっと優遇してくれるかなー?」


「……団長、神殿を潰しましょう」


「だから、落ち着けよニック! 団長もなんか言って下さいよ!」


「ニック、気持ちは分かるが落ち着け」


「しかし! 愛梨沙様は食事すらほとんど与えられていないんですよ! 愛梨沙様、最後にお食事をなさったのはいつですか?」


「えっと、ニックさんに祈り方を教えて貰った日、ニックさんが帰ってからいっぱい人が来て……神殿長って呼ばれてる人にお腹空いたって訴えました。そしたらご飯貰えて……それっきりです」


「聖女様が呼ばれて……もう二ヶ月だぞ……?!」


団長さんが、呆然としてる。ダリスさんも、悲しそうにしてる。


「愛梨沙様がシスターコリンナとしか話さないのもおかしいです。彼女が愛梨沙様に食事を出しているところを見た事がありません」


「神殿長と話したせいでシスターコリンナに懲罰だって殴られたので、それからは基本的にシスターとしか話してないですね。ご飯もお水も彼女からは一回も貰ってません。神殿長がたまにお水だけくれました。でも、聖女は死なないらしいし、ニックさんがたまにご飯くれてたので大丈夫でしたよ」


「あんなの……僅かな量じゃありませんか……! あまり食事をなさっていないとは思っていましたが……まさか、全く食事を……もっとたくさん持って来れば良かった……! 神殿長め! 愛梨沙様に水だけ与えるなんておかしいだろ! 団長、神殿を潰しましょう」


何度目か分からないニックさんの訴えに、団長さんもダリスさんも頷いた。


「許せねぇ……! 絶対潰す」


「ああ、すぐ国王陛下に掛け合う。聖女様は陛下に保護して頂こう」


あ、あれ?

ニックさんだけじゃなくてダリスさんも団長さんも怒ってるよ?! ダリスさんはニックさんを諌めてくれてたのに!


「あ……あの……。待って、そんな簡単に神殿って潰せるんですか?」


「愛梨沙様への狼藉は許しがたい犯罪行為。神殿を潰す理由は充分です」


「けど! 私に酷い事をしたのはシスターコリンナだけです! 彼女だけ罰を受けて神殿はそのままって事になりませんか?」


トカゲの尻尾切り。よく聞くのは政治家が知らなかったと言って秘書のせいにするやつ。実際知らなかったのかもしれないけど、本当は自分の罪なのに秘書に罪をなすりつけるなんて聞く。


私の言葉に、ニックさんとダリスさんと団長さんは固まった。やっぱり、そんな簡単に神殿は潰せないんだ。

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