第17話 嫌われたくない

「よし! テレビに出そう!」


神殿の人達がどう思ってるか統計を取った。結果は……、人々を救おうと考えてる神殿の人は三割。あとは甘い汁を吸いたいとか、人々に敬われるのが気持ちいいとか、碌でもない事を考えてる奴らばっかりだった。


私は、結果を円グラフにしてテレビに出した。


ニックさんも、ダリスさんも神様も……まるで時が止まっているかのように動かない。


「あ、あの! なんでみんな動かないんですか?!」


不安になってニックさんの腕を掴むと、真っ赤な顔をしたニックさんは私の手をそっと振り払ってしまった。


「し、失礼しました! あの、愛梨沙様……これは……?」


テレビを指差し、ニックさんが不思議そうに問いかける。神様は、ふよふよ浮きながら考え込んでる。


「テレビです。映像を映し出す機械ですね」


「機械とは、なんでしょうか? 魔道具のようなものですか?」


ダリスさんが恐る恐る問いかける。そっか、見た事ないなら怖いよね。


「魔道具がどんなものか分かりませんけど、多分似たようなものだと思います。私の世界では、テレビで遠く離れた場所を見れたり、普段会わないような綺麗な人やかっこいい人が見れたりします。この世界、舞台ってありますか? 歌とか、踊りをみんなの前で見せたりするんですけど」


「ありますよ。つまりこのテレビとやらで舞台が見えるという事でしょうか?」


「そんな感じです! えっとね、他にも色々……」


イメージ、イメージ。私はよく見ていたテレビ番組を映し出す。お気に入りのドラマの大好きなシーン。でも、いくら好きでも詳細を覚えてないから、なんだかチグハグで全く面白くなかった。


だけど、テレビを知らないニックさんとダリスさんには衝撃的だったみたいで二人とも驚いていた。ダリスさんは驚き過ぎて腰を抜かして、治癒魔法をかけた。


「うう……情けない所をお見せして申し訳ありません」


「私こそ、突然こんなもの出してごめんなさい。驚きますよね。ニックさんは大丈夫でしたか?」


「ええ、大丈夫です」


いつも優しいニックさんの態度がなんだかそっけない。あれ? 私なんかしちゃった?


心配だし、こっそりニックさんにも治癒魔法をかけよう。癒し×無量大数!


そうしたら、ニックさんが驚いたような顔をして少しだけ笑ってくれた。


良かった。嫌われたわけではないっぽい。


「それで、先程の丸い形のものはなんでしょうか?」


「円グラフって言います。もっかい出して良いですか?」


「お願いします」


私は円グラフの説明をした。この世界、統計とかないのね。データを集めるのが難しそうだもんね。アンケートとか取りにくそうだし。


「魔法で、神殿の人達の考えを覗きました。その結果がこれです」


「聖女様は……人の考えが読めるのですか?」


ダリスさんが驚いている。あ、やべ。考え読むなんて気持ち悪いよね。ダリスさんの考えは覗いてないけど、ニックさんの考えは覗いちゃったし……。


けど、ここで誤魔化しちゃ駄目だよね。私は恐る恐るダリスさんの言葉を肯定した。


あー……心を読まなくても分かる。

ダリスさんは、引いてるわ。ま、そりゃそうか。ニックさんは黙って考え込んでいる。


……怖いな。ニックさんに嫌われるのは嫌だ……


「愛梨沙様は、オレの心を読んだ事がありますか?」


恐る恐る頷いた。そしたら、ニックさんが笑った。


「今は読んでませんよね?」


「は、はい……。ニックさんの心を読んだのは二回だけです」


詳細を説明すると、ニックさんはますます笑顔になった。


「味方が欲しくて……ごめんなさい。もう勝手に読んだりしません。記憶を消す時は心を読まないといけないんですけど、記憶を消した事があるのはシスターコリンナとさっき街中で見かけた人だけです! それも、ちょこっと今考えてる事が分かるだけで……シスターコリンナは怖過ぎて心読めないし、だから……その……」


この人には嫌われたくない。そう思って必死で訴える。

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