第16話 国王陛下が一般人枠
怒ってるニックさんを宥めて、話を聞く。
「ニックさん、神殿ってかなり権力があるんですよね?」
「はい。ですが聖女である愛梨沙様を虐げて良い理由にはなりません。それに、偶発的に起こっていると思われた聖女召喚を神殿が仕組んでいたなんて……! これでは誘拐ではありませんか! 王妃様や……元聖女様達になんとご説明すれば良いのか……!」
「え、聖女様が王妃様になったんですか?」
「ええ、王妃様は十年前に聖女様として我が国にいらっしゃいました。そして、陛下と恋に落ちてご結婚なさいました」
「おお、なんて素敵なシンデレラストーリー」
「シンデレラ?」
「ああ、ごめんなさい。私が住んでた世界にあった童話をモチーフにしてるんだけど……なんて言うか……一般人が短期間で見違えるほど成長したり、思わぬ幸運を手にして、格上の男性と結ばれる話の総称かな」
「それに当てはめると、一般人の枠は陛下になりますね」
「だな」
「え、なんで! 国王陛下って国でいちばん偉いんじゃないの?」
「その通りです。ですが、聖女様は別です。聖女様はみんなに敬われる存在。国王陛下より尊い存在です」
ダリスさんが当たり前のように言った。ニックさんも頷いている。
「うっそぉ……」
ならなんで、私はご飯も貰えなかったわけ?! そう言いたかったけど、またニックさんが怒ったら申し訳ないから黙っていた。
この時、私はすっかり忘れていた。神様を呼ぶ直前、ニックさんとテレパシーで会話できた事を。
ふと見ると、ニックさんがまた怒っていた。
「……やはり、愛梨沙様は食事を食べていらっしゃらなかったのですね」
「え、えっと……」
私、うっかり口に出した?!
「いえ、心の中に響いてきました。神様、あのような愚か者達に敬われていては神様も困るでしょう。どうですか。ここは一言、神殿を解体すると申して頂ければ全て解決します。お願いできませんか。聖女様を虐げる神殿に存在価値はない」
ニックさんが据わった目をして物騒な提案をする。だけど、この提案はまずい。
「ニックさん、それはダメです!」
私は慌てて、ニックさんを止めた。
「どうしてですか! 神殿は明らかにおかしい!」
「うん、それは分かります。けど、神殿は国王陛下も手を出せない組織なんですよね? いくら神様の指示でも、そんなとこポーンと解体して……そのあと神殿を追い出された人達が何もしないと思いますか? 下手したら、偽物の神様の陰謀だとか言い出して……人々を騙して、国を傾けるかもしれません」
宗教でまとまった人達の繋がりは強固だ。人は自分の信仰の為なら、どこまでも残酷になれる。
もちろん、本来の宗教は人を救うものである事は理解している。けど……国王陛下も神殿に手を出せないなら、神殿はかなり強い権力を持ってる。私の暮らしていた世界とは比べものにならないくらい、人々は信仰心が高いのだろう。そりゃそうよね。本当に神様がいるんだもん。
街中を歩いたりニックさんの家を見た限り、この世界の文化水準は中世ヨーロッパくらいだと思う。魔法はあるけど、それで文化が発展してるようには見えない。せいぜい灯りの魔法を使ってるくらいかな。夜も明るいから、神殿を訪れる人は絶えなかった。きっと神殿を頼りにしている人も多いだろう。
弱い人達を守る神殿なら良いけど……私の知る限り、あの神殿は腐ってる。人は権力を得てしまうと、それを手放したくない生き物だ。
罪もない人を先導したり、利用したりする可能性はゼロじゃない。いや、限りなく高い。神殿の人達は、お参りに来る人達をどう思ってるんだろう。
そうだ!
神殿の人達の頭の中を巨大なデーターベースと考えて……統計を取れば良い。私は早速、魔法を使った。
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