第15話 神殿を潰そう

「大丈夫。ニックさんがいたから怖くなかったです。私、神殿に戻ります。安心して下さい。うまくやりますよ。私が神様を呼んだ事に気が付いてるのはどのくらいいますか?」


「街中の奴らが知っておろう」


「「そうですね」」


「うわ、じゃあ記憶消すとか無理じゃん」


神殿を潰したいのに。そう考えた瞬間、また気持ち悪くなった。


「愛梨沙様、大丈夫ですか?」


けど、ニックさんが話しかけてくれたら大丈夫になった。


「大丈夫です!」


「あの……聖女様……その黒い靄は一体……?」


ダリスさんが、なんだか怯えてるように見える。あれ、私なにかしちゃった? 考えを読もうとしたけど、ニックさんが信じてる人なら良いやと思ってやめた。心を読む魔法、読んだ人の考えに引きずられるんだよね。普通の人なら良いけど、シスターコリンナの心を読んだ時はマジで死ぬと思った。めっちゃキツかったよ。そのあとすぐニックさんの心を読んでなんとか耐えたけどさ。


だから、あんまり心を読みたくないんだよね。


「靄?」


「あれはの、聖女の呪いじゃ」


神様が淡々と説明する。


「呪い? なにそれ? それに、黒い靄って何?」


「愛梨沙様は、たまに黒い靄に覆われておられるのです。我が家にお連れする直前と、先ほどシスターコリンナに引きずられていた時に靄をお見かけしました。ですが、すぐ消えておりますね。神様、あの靄が聖女の呪いなのですか?」


「そうじゃ。聖女が人を憎むと、聖女ではなくなる。靄に囚われれば、聖女自身も身動きが取れなくなり、巻き込まれた生き物は全て死に絶える。……そして……魔物を生むようになるのじゃ」


「魔物って、自然発生するもんじゃないの?」


「他国に魔物は出ないのです。出るのは我が国だけです。聖女様が現れるのも我が国だけ。ですから、魔物から人々を守る為に聖女様が現れるのだと考えられています」


「え、違いますよ。聖女召喚をしてるのは神殿。神殿の求心力を高める為に聖女が呼ばれてるだけですよ。神殿の奴らは誘拐犯ですよ」


「え……?」

「うそ……だろ……?」


ニックさんとダリスさんが呆然としている。大丈夫かな? そう思った瞬間、またニックさんが殺気を放った。


「オイ! ニック落ち着け! 聖女様が怯えるだろうが!」


「全然怖くないですよ。平気平気。そうだ、安心魔法使いましょうか」


冷や汗だらだら流してるダリスさんに安心魔法をかける。一応、かける百をしておいた。ついでに浄化もかける。あの神殿、お風呂がないっぽいんだよね。みんな水浴びするんだって。私は放置だから汗ベタベタで気持ち悪いし、定期的に浄化魔法をかけてる。浄化で、掃除もできるんだよ。おかげで部屋は埃ひとつない。


「なっ……これは……?!」


「不安を取り除く魔法です。あとついでに浄化魔法もかけました」


「浄化って、すげー魔力を使うんじゃ……」


「そうなんですか?」


「聖女の魔力は無限じゃからのぉ。ニックよ、少しは落ち着いたかの?」


「……は、申し訳ありません。それで、神殿が聖女召喚をしているというのは本当でしょうか?」


「本当じゃ」


「陛下にかけあって、神殿を潰しましょう」


「少しは落ち着けよ! 腹が立つのは分かるけどよ!」


「分かってるなら、神殿を潰そう」


ニックさんの目が据わってるんだけど、神殿を潰すのは賛成。けど、ちょっと落ち着いて貰おう。私は、ニックさんに安心魔法をかけた。もちろん効果を倍掛けして。

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