第14話 神殿の権力
私を気遣ってくれるニックさんは相変わらず優しいと思う。だからこそ、こんな良い人を巻き込みたくなかった。
「神殿がどんだけ偉いのか分かんないけど、権力がかなりあるでしょ? ニックさんに迷惑かけたくないもん。それに、ニックさんはお母さんもいるでしょ? クビになったら困るじゃん」
「そりゃ……困りますけど……」
「ね、この話は終わり! この後神殿に帰るよ。なんか適当に魔法で誤魔化すしさ。神様呼べたんなら、もうちょっと扱い良くなりそーじゃん。一生、神殿にいろって言われたけど、そんなの嫌だし。もう少し様子見て、次はもっと上手く逃げ出すよ」
「神様を降臨出来る聖女様は稀です。きっと、定期的に神を呼ぶ事を求められます。愛梨沙様の扱いが良くなるとは思えない。あのシスターは、人間じゃねぇ。悪魔ですよ」
「あはは、確かに悪魔っぽいかも。そっかー、なら幻影にお任せするかなぁ」
「いくら聖女の力が強くても、幻影で我は呼べぬぞ」
「うわー……めんどくさい」
「愛梨沙様、神殿に戻るのはやめましょう。国王陛下に掛け合います。城で保護して貰うのです」
「しかしニック……そんな事したら神殿が黙ってない。国が割れるぞ」
「ならこのまま愛梨沙様を放っておけというのか?!」
ニックさんが怒ってる。ありがとう。でも、私は大丈夫。信仰心って人をまとめる上で重要だもんね。神殿の権力はかなりあるのだろう。信仰心のある人は、命より信仰が大事。神殿が上手く煽れば、国が傾く。
ところで、神様ってどのくらいいるんだろ。
「神殿ってどれくらい凄いんですか? あと、神様って一人だけ?」
「一人という表現が正しいか分かりませんが、神様はお一人だけです。だから、神殿の権力はかなりありますね。国王陛下も、神殿には手出しできません。愛梨沙様の世界は違うのですか?」
「国によるけど、私の住んでた国は神を信じてない人もいっぱいいます。あとね、めっちゃいっぱい神様いますよ。数え切れないくらい。私が住んでた国は、八百万の神って言葉があるんです。はっぴゃくまん、って書いて八百万って読むんですけど」
「八百万も神がおるのかの?」
「ううん。八百万って正確な数字じゃなくてね、めっちゃ多いって意味で使われる言葉なの。数え切れないって事。実際どれだけの神様がいるのか、数えた事もないし分かんない。あらゆる自然物、自然現象に神が宿るって考えたらしいよ。お正月に神社に行くだけだし、あんま詳しく分かんないけど。自然物だけじゃなくて、大事にしてる物に憑く神様とかもいるっぽい。ま、こっちの世界みたいに神様が降臨したりしないから、ぜーんぶ人間の想像ですけどね。一神教ってのもあって、神様は一人……じゃなくて一柱だと信じてる人も多いです。私はお正月に神社に行くしクリスマスを祝うしあんまり神様は信じてない方かな。さすがに、目の前に現れたら信じるけど」
「物に神が宿るのですか?!」
ニックさんが驚いてる。付喪神って、どう説明したら良いのかな。
「うん。他にも色々。死んじゃった人間が神格化して神として崇められてるとかもある」
「……人間が……神……?」
ダリスさんも、呆然としてる。そっかー、八百万の神、受け入れられないかぁ。まぁ、一神教の人達からすると受け入れられなくて当然かもね。
「そうなのですね。愛梨沙様の世界と、オレたちの世界は全く違うのですね。それなのに神殿の奴ら説明もせずに……急に祈れと言われて、怖かったでしょう」
受け入れて貰えない。そう覚悟していたのに。ニックさんはあっさり私の話を受け入れてくれた。心配までしてくれた。
やっぱりこの人は、特別だ。この世界で、いちばん大事だと思える人。ニックさんだけは、困らせたくない。迷惑も、かけたくない。
……考えろ。情報を集めろ。幸い、ここには神様もいる。ニックさんも、ニックさんが信用してるって言うダリスさんもいる。
神様にお願いしてシスターコリンナを失脚させても、第二、第三のシスターコリンナが現れるかもしれない。
それなら……もう少し大人しい聖女を演じる方が良い。
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