第12話 テレビ

「だったら、家に帰してよ」


「帰せるならとっくにそうしておるわい」


神様の言葉に、ああ、やっぱり帰れないのかと理解した。お父さんとお母さんは、おじいちゃんみたいにずっと私の事を探すんだろうな。


それは、嫌だ。


心配をかけたくない。

喧嘩もしたけど、優しかった両親にもう会えない。


あんな奴らのせいで……!


「聖女……愛梨沙……落ち着け!」


「せいじょ、さま?」


焦った神様の声、怯えたアリサちゃんの声……。私は、聖女……。違う……。


頭の中が、少しずつ黒く染まっていく。神様や、アリサちゃんが何か言ってるけど、全く聞こえない。


「愛梨沙様! 貴女は、清川 愛梨沙様です! 大丈夫です! オレが、貴女を守ります。神殿になんて帰らなくて良い! オレが一生、貴女を守ります!」


だけど、ニックさんの声は……私の耳に届いた。


「ニックさんがそんな事言ってくれるのは……私……私が……聖女だから……」


「んなモン関係ねぇよ! 愛梨沙様が聖女だろうが聖女じゃなかろうがオレが一生守ってやる! 騎士をクビになっても守る! オレが守りたいのは、聖女様じゃねぇ! 清川 愛梨沙だ!」


聖女じゃなくても良い。

怖い人達に誘拐されて、聖女だと言われて……どうして良いか分からなかった。みんな私の事、聖女って呼ぶのに……この人は……。


黒く染まった気持ちが、どんどん薄くなって消えた。


「ふう……危ないのぉ」


「神様、愛梨沙様を刺激しないで頂けますか?」


私を庇いながら、低い声でニックさんが神様を問い詰める。そしたらなんだか幸せな気持ちになって、不安が消えた。


ふよふよ浮いてた神様が、沈んで頭を下げた。


「むぅ……すまなんだ。しかしの、聖女が人を憎むと悲惨な事が起きるんじゃ」


「え、私めっちゃシスターコリンナが嫌いだけど。憎んでるかと聞かれたら迷わず肯定するよ」


「知っておる。ニックがおらんかったらとっくにこの街は壊滅しておる」


「どういうことよ? あ、神様は質問したら懲罰だーとか言って殴ったりしない?」


「するわけなかろう!」


その瞬間、ものすごい殺気がした。ニックさんからだ。アリサちゃんが気を失って、倒れた。


ニックさんは、慌ててアリサちゃんを抱き留めた。


「申し訳ありません」


「私は平気。アリサちゃん、大丈夫かな?」


「殺気に当てられて気絶しただけじゃ。問題ない。回復魔法をかければすぐ目覚めるだろう。しかし、回復するのは少し待て。あまり子どもに聞かせる話でもないしのぉ」


「ふーん。じゃあ、神様はアリサちゃんを守ろうとして結界に呼んでくれたんだ」


「うむ。あのまま放っておけばシスターコリンナの餌食じゃからのぉ」


「んー……結界の外って見える?」


そろそろシスターコリンナが土下座をやめてるんじゃないかな。幻影にオートプログラム組んでないから、アリサちゃんが幻影ってバレるかも。


「いや、見えぬ」


「えー……そうだ! テレビ作ればいけるんじゃない?」


魔法はイメージなんだから、なんだってできる。結界の外に監視カメラがあるとイメージして、テレビを作り上げた。


「なっ……これは一体……!」


「テレビです。ほら、外が見えますよ! 良かった、シスターコリンナまだ土下座してる。あ、ニックさんの幻影に誰か話しかけてますよ」

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