第11話 結界の中で
「かみ……さま?」
「うむ。我は神じゃ」
さっきまで跡が残るくらい強く握っていた手を離し、シスターコリンナが土下座した。あームカつく。この頭、踏んづけてやりたい。
そう思ったら、また心がモヤモヤイライラした。
「聖女よ。結界をこの辺りに張れ」
神様がふよふよ浮きながら、空中を動く。
「結界?」
「そうじゃ。出来るはずじゃ。早うやれ」
私は神様にイライラしながら、結界魔法を使った。結界魔法は使った事がなかったけれど、シスターコリンナの真似をすればいけた。
身体が浮いて、結界の中には私と神様だけ。
「其方の隣にいた少女と、ニックを結界に入れるのじゃ。幻影を出して、外にいるように誤魔化せ」
「分かった」
シスターコリンナを結界に入れろとか言われたら嫌だけど、あの子とニックさんなら構わない。私は神様の指示通り幻影を出してニックさんと女の子を結界の中に招待した。
ニックさんの顔を見ると、さっきまでイライラしていたのが嘘みたいに落ち着く。
神様は、ふよふよ浮きながら私達に話しかけてきた。
「突然呼んですまなんだ。あのシスターが邪魔でのぉ」
「本当にあの人、邪魔。ねぇ神様。私はどうでもいいからこの子を助けて」
「分かっとるわい。聖女の願いが強かったから我が呼ばれたんじゃ」
「じゃあ、この子は助かる?」
「我が降臨したんじゃ。なんとしても助けてやるわい」
「よっしゃ! 良かったね。神様が助けてくれるなら大丈夫。ねぇ、名前なんて言うの?」
私は、不安そうに震えてる女の子の名前を聞いた。名前を聞かれるって、あなたのことを知りたいって意思表示になるんだよね。不躾に名前を聞かれたら嫌だけど、ずっと名前を聞かれないのも私の事に興味ないんだと思って悲しい。
ニックさんに名前を聞かれた時は、洞窟の奥で宝箱を開けたみたいな喜びがあった。やっと、私の事を知ろうとしてくれてる人を見つけた。そんな気分だった。
女の子は、震えながら名前を名乗ってくれた。
「アリサ。わたしの名前は、アリサです」
「「え?!」」
私とニックさんの声がハモった。
「聖女様と同じお名前ですね」
「本当だね。ま、私の名前なんてニックさんが聞いてくれるまでだーれも知らなかったけどさ」
ケラケラ笑うと、ニックさんがつらそうに手を握りしめた。これ、この人の癖なのかな。また血が出てる。
「怪我しないようにって、魔法かけたのになぁ」
そう呟いてニックさんの手を治すと、申し訳なさそうに頭を下げてくれた。
「加護は外からの攻撃しか効かぬ。ニックが自害をしようとすれば、加護では守れん」
「……そっか。そんな事、しないで下さいね」
「しませんよ。オレは愛梨沙様をお守りしないといけないのですから」
ニックさんがじっと私を見る。なんだかとっても安心する。さっきまでイライラしてた事も忘れて、心がポカポカしてくる。
「やはり、ニックなら聖女を助けられるのぉ」
神様がそう呟くと、ニックさんはきっぱりと言った。
「オレは愛梨沙様の護衛騎士ですから、全力で愛梨沙様をお助けしますよ」
うっ……無茶苦茶かっこいいじゃないのよ。なんだかよく分からないけど、胸がキュンキュンするんですけど。
ニックさんは、私の事を名前で呼んでくれる。それだけで、私は存在して良いんだ。聖女じゃなくても良いんだと思える。
ニックさんにもらったホワホワと幸せな気持ちを、神様がぶち壊した。
「聖女……いや、愛梨沙よ。其方は聖女じゃ。幸せであらねばならぬ」
神様の言葉に、私はブチ切れた。幸せなんて、ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます