第10話 ニック視点2

シスターコリンナに追い返され、頭にきたオレは団長に報告をしてから怒りを鎮めようと友人のダリスと模擬戦をした。すると、オレに攻撃したダリスの模造刀が折れたのだ。


オレは、全く痛みがなかった。なんだこれはとダリスと大騒ぎしていると、団長が加護の魔法だと教えてくれた。加護は儀式魔法だぞ。宮廷魔術師くらいしか使えない魔法のはずなのに……。聖女様が使えたなんて聞いた事ねぇ。しかも、やたら強え加護らしくて……団長の真剣も折れた。


愛梨沙様は、あんな状況なのにオレを気遣って下さったんだ。


オレは団長とダリスに、加護の事を黙ってて貰えるよう頼んだ。聖女様が加護を使えると分かれば、ますます彼女は神殿に利用される。


ダリスに教えて貰い、戦い方を変える事にした。ダリスは素早く攻撃を避けるのが得意だ。対するオレは力で押し切るパワータイプ。戦い方を変えるのは厳しいと団長に言われたが、加護が公になるのは避けたい。


ダリスに特訓してもらい家路につくと、なんと聖女様が街中でうずくまっておられた。最初は気が付かなかったが、声を掛けるとすぐに分かった。なんだか黒い靄のようなものが見えた気がするが、声をかけると消えた。聖女様はオレの顔を見て、嬉しそうに笑って下さった。黒髪が目立つと言えば、魔法でさっさと色を変えてしまわれた。しかも、目撃者の記憶も消してしまった。


今回の聖女様は規格外だ。


オレは聖女様に魔法を使わないよう言い含めて家に連れて行った。本当は騎士団に連れて行きたかったが、無防備に笑う彼女を他の男に見せたくなかった。


自分の家の方が近いと勝手な言い訳をして、愛梨沙様を家に連れて行った。彼女は監視がないからか、普通にオレと話をしてくれた。まさか、神殿が名前すら聞いてないとは思わなかった。


やっぱりあの神殿はおかしい。


そんな所に帰る必要はない。それなのに……。愛梨沙様は苦しそうに笑って神殿に帰ると仰った。


オレが護衛を辞めないのなら、大丈夫だと。


そんなわけあるか。脱走した聖女様なんて聞いた事ねぇ。それくらい、神殿がやべえって事だろ。


ダリスと一緒に必死で愛梨沙様を探していると、橋の下で眩しい光が輝いた。これは間違いなく愛梨沙様だ。そう思って走ると、見知らぬ少女と愛梨沙様はシスターコリンナに引きずられていた。


愛梨沙様の身体に少しだけ黒い靄が見える。けど、オレの顔を見ると黒い靄が消えた。


『大丈夫……大丈夫です』


そうオレの心に語りかけて、無理して笑う。


大丈夫なわけあるか!

オレは必死で愛梨沙様の心に呼びかけた。


カチリとなにかがハマる音がして、愛梨沙様の考えが心の中に響いてきた。これなら、きっと会話が出来る。


愛梨沙様は恐怖に怯えながら少女を守ろうとなさっていた。このまま連れて行かれたら、愛梨沙様だけでなくあの少女も危険だ。


そう語りかけると、愛梨沙様は怒ってしまわれた。


『ふざけんな……この子に酷い事なんてさせない……!』


『落ち着いて下さい愛梨沙様! シスターコリンナは信心深い。先ほどのような光を出せば……』


『あ、そうか。神様呼べば良いんだ』


『は?! た、確かに神が降臨すればシスターコリンナはおとなしくなるでしょうが……』


『神様、私の事はどうでも良い。でも、この子を助けて。……絶対、助けて。さっさと姿を現せ神様!』


怒鳴るような愛梨沙様の心の叫びは、眩い光を放つ神を呼び寄せた。

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