第7話 脱出

逃げると決めたらあとは行動するだけだ。


魔法を使い、人のいない所を探す。透明化も使い、人を避けて無事神殿を抜け出した。


街並みを見ると、自分は違う世界に来たのだとはっきり分かった。アスファルトなんてない。地面がむき出しだ。人々の服装は、テレビでも見た事がない。知らない文字は、魔法を使えば読めた。武器屋とか、ポーション屋とか、魔法屋とか見た事も聞いた事もない店がたくさんある。


透明化をかけたまま街中を歩き、人々を観察する。似た年頃の女の人の服を真似して、服装を変化させてから人気のない所で透明化を解除した。


魔法、万能だな。


「さて、これからどうしようかなっと」


神殿には私の幻影を残してきている。あえて、ズタボロのままにして床に放置してある。


癒しの魔法を感知したら、怪我を治してベットに潜り込む。あとはずっと寝る。なにをされても起きない。そうプログラムした。


心配だったので、幻影には掛ける無量大数してある。そうしたら、幻影なのにバッチリ触れるようになった。


これで、多分大丈夫だろう。


聖女が起きなくなったらあのシスターは失脚するかなぁ。そんな意地悪な気持ちが芽生えた。


そしたら、心がザワザワして……なんだか気持ち悪くなった。


「おい、大丈夫か?! ……って……貴女は……」


道端でうずくまっていると、護衛騎士のお兄さんが助けてくれた。


そしたらザワザワした気持ちが消えて、気持ち悪いのがなくなった。私はすっかり元気になって、お兄さんに笑いかけた。


「こんにちは! 脱走しちゃいました!」


「……あんなところ嫌ですよね。よろしければ、うちに来て下さい。ただその……聖女様の黒髪は目立ちます。なにか布を……」


「あ、そうなの?」


私は急いで魔法を使った。髪の色をお兄さんと同じ金髪にして、周りで見ていた人達の心を覗いて私の記憶を消す。


記憶を消す魔法、頭の中を覗かないと使えないのよね。一回シスターコリンナに使ったんだけど、あの人の頭の中覗いたせいで悪夢を見ちゃったわよ。


幸い、目撃者は三人だけでみんな普通の人だった。お兄さんが声をかけてくれなきゃ、連れ戻されてたかもね。


黒髪が目立つなんて知らなかった。


「なにをしたんですか?」


お兄さんが小声で聞いたから、私も小声で返事をする。


「私が黒髪だった事を忘れてもらいました」


「魔法ですか?」


「はいっ!」


「……オレの家に行くまで、魔法はお控え下さい」


「分かりました」


魔法は目立つのかな? まぁ良いや。このお兄さんは悪い人じゃない筈。念の為、悪いと思いつつお兄さんの心を覗いたけど、ずっと私を心配してくれてた。団長に頼んで……とか難しい事を考え始めたから、覗くのはやめた。

この魔法、便利だけどあんまり好きじゃないな。


余程の事がないと使わないでおこうと心に決めて、私はお兄さんについて行った。


「狭い家ですが、どうぞ」


「お邪魔します」


お兄さんの部屋は、二人暮らしのようだった。女物のエプロンがあるから結婚してるのかも。


あれ?


なんだか分からないけど、胸がチクリと痛んだ。


「すいません。母が寝ていますのであまり大きな声で話せないのですが……」


「私こそ突然お邪魔して申し訳ありません」


そっか。お母さんと二人暮らしなんだ。

胸の痛みが、消えた。

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