第6話 脱走します

幻影の魔法を作り出した。オートプログラムを組んで、祈ってるフリをずっとしている。


たまにシスターコリンナの機嫌が悪い時は、懲罰だと乱暴されるけどそれも幻影に肩代わりさせる事が出来るようになった。


怖かったシスターコリンナを見ても、心を落ち着かせる魔法のおかげで恐怖を感じなくなった。


魔法はイメージだからか掛け算が効いた。恐怖を取り除く魔法は、何回も重ね掛けしないと、恐怖心が消えなかった。ある時面倒になり、冗談混じりで掛ける一億ってイメージしたら重ね掛けしなくても不安がなくなった。


不安を取り除く魔法と呟くのが疲れたので、安心魔法と名前をつけた。そしたら、安心って心で呟いたり願ったりするだけで魔法が使えるようになった。安心掛ける無量大数! とかやればあっさり不安を取り除ける。


今日はシスターコリンナの機嫌が悪くて、私は結界の中に連れて行かれた。それも安心魔法を使えば怖くない。連れて行かれたのはもちろん、幻影だ。幻影は便利で、簡単な台詞なら喋らせる事もできるのよ。いっぱい魔法を掛け算したら実体化するしね。シスターコリンナの場合、ごめんなさいと分かりましたとありがとうございますを延々と繰り返してれば満足するっぽい。


その間、私は透明になって隠れておくのだ。幻影の私が結界の中に連れて行かれそうになった時、護衛騎士のお兄さんが助けようとしてくれた。

私は慌てて、お兄さんにテレパシーで話しかけた。


『大丈夫です。あれは幻影なので』


お兄さんは、驚いて周りを見回した。届いたんだ。良かった。シスターコリンナは結界を作って中に入った。今頃、幻影の私をいたぶっているだろう。


『私は平気です。いつも助けてくれてありがとう。もし聞こえていたら、手を握って下さい』


お兄さんの手が、ぎゅと握られた。届いたんだ。良かった。ふと見ると、お兄さんの手は血だらけだった。そういえば、私が酷い目に遭う時、お兄さんはいつも追い出される。けど、苦しそうに手を握っている。


『大丈夫。私は死なないらしいから』


そう伝えると、お兄さんは苦しそうに笑った。私は、癒しの魔法をお兄さんにかけた。心配だったから、効果を掛ける無量大数した。


お兄さんは、驚いた顔をしていた。


『体調はどうですか? 痛いところがあったら、手を握って下さい』


お兄さんの手は、握られなかった。代わりに、優しく笑ってくれた。


『いつも、本当にありがとう』


お兄さんが怪我や病気をしませんように。そう願って魔法をかけた。透明な盾が身体中を覆ってるイメージだ。仕上げに効果を掛ける無量大数すると、結界で魔力を使い切ってゼェゼェいってるシスターコリンナが現れた。結界って、結構魔力を使うらしいのよね。チラッと見えた幻影の私はズタボロだ。よしよし、ダメージ量に合わせて怪我を増やすオートプログラムもうまくいってるわね。


お兄さんも私の姿が見えたのだろう。すごい怖い顔をしてる。シスターコリンナは幻影の私を隠してお兄さんに帰れと命令した。


『大丈夫。あれは幻影だから。私は痛くないです』


テレパシーで伝えて、透明になったままお兄さんの手をぎゅっと握ると、安心したように笑ってお兄さんは部屋を出て行った。シスターコリンナは、自分で癒せと幻影の私を踏みつけ、フラフラと部屋を出て行った。


幻影でここまで騙せるなら、逃げ出せる。


魔法があれば、飢えは凌げる。


私は、今日ここから逃げると決めた。

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