第5話 魔法発動

「魔物は減りましたか?」


「ええ! 減りました。素晴らしいですわ」


「私は、魔物の減少だけを願えば良いのですか?」


「聖女様! なんて殊勝な心がけでしょう! わたくしの教育の賜物ですわ! 民の安穏も、共に祈りなさい」


「……それなら、民の姿を見せて下さい。どんな人達か分かれば、祈りやすく……」


空気が、凍った。

シスターコリンナは、今まででいちばん怖い顔をしていた。最近は、鞭はなかったのに。悪魔のように笑ったシスターコリンナは結界を張り、私を引きずって行った。護衛騎士のお兄さんが助けようとしてくれたけど、今すぐ帰らないとクビにするわよと怒鳴られていた。


本当は助けてと言いたかった。けど、このままじゃお兄さんと会えなくなる。それは、これから行われる怖い事よりも嫌だった。


だから、首を振って笑った。


お兄さんは、泣きそうな顔をしながら部屋を出て行った。


それからは、苦しくて痛くて覚えてない。いつもは癒してくれるのに、シスターコリンナは私を癒してくれなかった。


身体中痛くて、苦しくて……。


怪我を治したい。そう強く願った。すると、私の身体が光って……怪我が治った。


私は、魔法が使えるようになった。


シスターコリンナは大喜びして、またお祭り騒ぎになった。神殿長が、魔法の本を色々持って来た。シスターコリンナが読み聞かせようとしてくれたけど、この人の言う事なんて信用出来ない。翻訳の魔法を願うと、本の文字が読めた。シスターコリンナが読まなかった部分に、魔法はイメージだと書かれていた。想像力があれば、魔力が足りる限りどんな魔法も使える。聖女の魔力は無限らしい。


それなら……逃げる手段はあるだろう。


私はシスターコリンナがいない間に、魔法の練習を繰り返した。シスターコリンナが使えと言った魔法しか使わないフリをして、様々な魔法を開発した。


いろんな物を魔法で作れるようになった。

無限収納を作って、作った物を隠してある。本や筆記用具、アクセサリーも作れた。


だけど、どれだけイメージしてもご飯は作れなかった。


そのかわり、癒しの魔法が空腹も癒してくれると分かった。だから、ご飯が貰えなくても平気になった。


心を読む魔法を開発して使ったら、いろんな事が分かった。シスターコリンナの頭の中は吐き気がするほど気持ち悪い。物凄く残酷なホラー映画みたいだった。だから、すぐ魔法をやめた。心配そうにしてる護衛騎士のお兄さんの心を読んだら、心配してくれてると分かってホッとした。それでなんとか、怖いのがなくなった。まぁ、それでも悪夢を見ちゃったけど。


私は、大学でプログラミングを学んでいた。だから、人の頭の中をデータベースと仮定して欲しい情報だけ検索で取り出せるような魔法を作った。


感情が引きずられる事なく情報を集められるようになった。


聖女の任期は三年だと分かった。今までの聖女様は、聖女召喚は事故だと説明されてるみたいだった。けど、私は知ってる。聖女召喚は、意図的に行なっている。だって最初に、召喚は成功だって言ってたもの。検索をかけて、神殿がこっそり聖女を呼んでると分かった。聖女召喚をすると、神殿の求心力が上がるんだって。


……やっぱ神殿はクズじゃん。神様なんて、いないんだよ。


そう思った。神殿の地図も手に入れたし、身体を透明にする魔法も開発した。けど、怖くて使えない。途中で見つかったら、自分がどうなるかくらい分かるもの。


味方かどうか知りたくて改めて護衛騎士のお兄さんに魔法を使った。直接考えてる事を覗くのは怖すぎたから、私の事をどう思ってるか魔法で検索してみた。


お兄さんは私の事を心配してくれてる良い人だった。散々疑って、申し訳なかったと思った。


お兄さんの心を知ってからは、理由は分からないけどすごく元気になった。


元気になると、こんなところ嫌だって強く思うようになった。


なんとか逃げたい、でも、怖い。


悩んだ私は、何度も護衛騎士のお兄さんを頼ろうとした。


けど、私と話すだけでクビなんだから私の脱走に協力したと分かればどうなるか分からない。この世界の法律は知らないけど、下手したら処刑されちゃうかもしれない。


優しいお兄さんに迷惑はかけられない。


長い間悩んで、私は一人で逃げる事に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る