第4話 唯一の癒し

嬉しい事もあった。シスターコリンナがいない時に、護衛騎士のお兄さんが食事やお菓子くれるようになったのだ。私があまり食べていない事に気がついたのだろう。いつも一口で食べられるような物をくれる。お腹は相変わらず空くけど、お兄さんがくれるご飯はとっても美味しい。


「独り言です。いつもありがとう」


そう言うと、お兄さんはにっこり笑ってくれる。耳が良いのか、シスターコリンナの足音を察知して合図を送ってくれるようになった。


「聖女様は優秀ですわ。この分なら、歴代の聖女ができなかった偉業もすぐに成し遂げるでしょう」


シスターコリンナは、抽象的な物言いをする。ここで質問をしてはいけない。質問をすると、鞭が飛ぶ。


私は聖女で、神に祈れて、魔法とやらも使える。


ここまでは理解した。

けど、魔法の使い方が分からない。


神様なんていねーだろ。そう思っているからいけないのだろうか。こんな嫌な人達が信じてる神なんてロクなもんじゃない。どうしても、そうとしか思えない。


訳の分からない事ばかり言うシスターコリンナは、変な人達をいっぱい連れてくる。まるで自分の持ち物を自慢するように、私の事を自慢する。


私はアンタのアクセサリーじゃないわよ。そう思うけど、黙ってシスターコリンナの言う事を聞くフリをする。


護衛騎士のお兄さんは、そんな時いつも苦しそうな顔をして手を握りしめている。


「独り言です。聖女様の偉業とは、神を降臨させる事です。歴代の聖女様で、神を降臨出来た方は数名しか記録に残っておりません。心から神に祈り、救いを求めれば偉業を成し遂げられるかもしれません」


お兄さんは、誰もいない時にいつも独り言を言って助けてくれる。正直、お兄さんが唯一の癒しだ。


信じたいと、思う。

けど、信じて良いのか分からない。


会話の通じないシスターコリンナとしか話せない。それは大きなストレスとなり私の心を蝕んでいった。時折、心がザワザワする事が増えた。


だけど……限界がくる前にお兄さんが美味しいお菓子やご飯をくれる。そうすると幸せな気持ちになって、心のザワザワが消える。


綱渡りの日々だ。この部屋から出る事の許されない私は、これからどうなるのだろう。


なんとか逃げたいと思っていた。けど、逃げてどうすれば良いんだろう。この世界は、明らかに私の知る世界と違う。逃げて、生きていけるのだろうか。


聖女は死なない。でも、痛いのも苦しいのもある。


せめて、もう少し外の世界の事を知りたい。そう思った私は、勇気を出してシスターコリンナに質問をした。

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