第2話 お腹空いた

目覚めると、シスターコリンナがいた。なんかペラペラ捲し立ててる。


要約すると、


私は聖女→意味わかんねぇ

神に祈れ→やり方教えろよ

喋って良いのはシスターコリンナだけ→こんな話通じない人としか話せないって人生終了だろ。けど、話しかけた人も懲罰するとか言ってるし私が会話したら迷惑かけるかも。あの鞭、ちょー痛いし

一生神殿で神に祈れ→人生終了のお知らせじゃねーか!


建物や人々の雰囲気から察するに、ここは多分日本じゃない。じゃあ何処の国だろうと思ったけど、地球でもなさそう。


だってシスターコリンナ、魔法使ったし。

シスターコリンナがなにやらゴニョゴニョ言ったら鞭で打たれて痛かった背中が痛くなくなった。こんなの、知らないしありえない。


そのあとまた祈れって鞭でしたけど。鞭のあとは魔法で癒された。なにこのマッチポンプ。


とりあえずシスターコリンナの機嫌を取る方がいいと判断した私は、癒された時大袈裟に感謝しておいた。すると、シスターコリンナの機嫌が良くなり、神に祈れと言い残して部屋から消えた。


……だからさ、やり方教えてよ。


とりあえず恐怖の大魔王。いや、ありゃラスボスか?

ラスボスのシスターコリンナと入れ替わりで、一人の男の人が入ってきた。出入り口でじっと立っている。この人、話しかけたら駄目なんだよね。


「ぐぅ……」


あ、やべ。お腹が鳴った。

そういや、なにも食べてないんだったな。


「独り言です。空腹なのですか?」


出入り口に立ってるお兄さんが、困ったように笑った。そうか、独り言なら良いんだ。裏技を見つけた時のようにワクワクした。


「独り言です。めっちゃお腹空いてます。誘拐されてから、飲まず食わずですし」


お兄さんは、顔を歪めて手を強く握りしめた。そして、懐から水筒とビーフジャーキーのような物を取り出した。


「独り言です。どうぞ」


「独り言です。ありがとう」


出入り口を警戒して、オッケーサインをしてくれた。今がチャンス! 私は夢中でビーフジャーキーを食べて、水を飲んだ。


空腹が幾分満たされて、お礼を言って水筒をお兄さんに返すと物凄い乱暴な足音がしてラスボスが現れた。


「まだ祈っておられないのですか!」


「聖女様は、祈ろうとなさっておりました。ですが、やり方をご存知ないようです。シスターコリンナ、きちんと教えてあげてはいかがですか?」


「うるさい! ニック! お前は騎士だ! 黙って立っていろ! まさか、聖女様と話してないだろうな!」


「一言も聖女様と会話しておりませんよ」


「この人、なんにも話してくれません! 早く、祈り方を教えて下さい!」


「……聖女様、神を信じれば自然と祈り方は分かりますわ。午後までに祈らなかったら、懲罰しますので」


「ひぃ!」


私が怯えると、シスターコリンナは嬉しそうに去って行った。もう無理。お家に帰りたいよぅ。


涙が溢れて止まらない。


気が付くと、お兄さんがハンカチを渡してくれた。


「独り言です。よく見て下さい」


そう言って、お兄さんは部屋にある怪しい祭壇に跪く。手を組んで、魔物の減少を祈れば良いと教えてくれた。


「今はやめた方がいいでしょう。シスターコリンナが来たら、祈りましょうね」


そう言って、優しく笑ってくれた。敵ばかりだと思ったけど、この人は敵じゃない。そう思いたかったけど、ふとおじいちゃんの教えを思い出した。


この人は、もしかしたら私を懐柔しようとしてるのかもしれない。


そう思いたくなかったけど、異常な事しか起きてない世界だから、警戒するしかなかった。


この時、お兄さんを信じて色んなことを聞いていれば、あんなに酷い目に遭わなかったのかもしれない。

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