第1話 おじいちゃん、怪しい人達に囲まれてます
「召喚は成功です! さぁ! 神に祈りなさい!」
「は? 誰よアンタら。ここどこ?」
「貴女は聖女です。特別な存在ですわ。わたくしは貴女の世話係のシスターコリンナと申します。さぁ、聖女様、我々の為に神に祈りを捧げて下さいな」
……なにコイツ。
ってか、ここ何処?
バイト終わって、帰ろうとした所までは覚えてるんだけど気が付いたら知らない場所にいた。足元にはピカピカ光る謎の魔法陣がある。
そして、目の前にはたくさんの人達。
どう見ても善人には見えない。
「神に祈りを捧げろって言われても。うちは仏教徒だけど」
「なにを訳の分からない事を! 神に祈れと言っているでしょう!」
シスターコリンナと名乗った女の人は、鬼のような顔をしている。怖え! しかも、手には鞭を持ってる。本物の鞭、初めて見た。やべーやつやん。
神って言われてもなぁ。
うちは仏教徒だよ。
しかも信仰心はめちゃくちゃ薄いよ。
お母さんは自分の家の宗派も知らないし、お父さんは仏壇に手を合わせたりはするけど……それくらいだし。死んじゃったおじいちゃんなんて、神も仏も信じてなかった。大好きなおばあちゃんが行方不明になって、ヤバげな新興宗教の勧誘がたくさん来て、信じればおばあちゃんが帰ってくるとか言って笑顔を貼り付けて勧誘してきてたらしい。
おじいちゃん、激おこで大変だったってお父さんから聞いた。
『ああいう輩は、人の弱みにつけ込むんだ。何が信じれば救われるだ! うちの金が欲しいだけだろうが! 金を払えば偉くなれるなど馬鹿にしとる! 良いか、何を信じても構わんが、自分達の正義を押し付ける奴等には気をつけろ。大学に入ると、サークルの勧誘と称して宗教やマルチの勧誘をする奴らがいる。怪しんで逃げようとした時、タイミング良く助けてくれる人も簡単に信用するな。そいつらが組んでる可能性もある。それからな……』
おじいちゃんは、宗教やマルチが大嫌いで色々調べていた。おじいちゃんの話を聞いたり、うちに勧誘に来る人達を見てるうちに、ヤバいなと思う人達は雰囲気で分かるようになった。
けど、私の勘も完璧じゃない。
高校生の時、優しいバイト先の先輩が将来料理教室をやりたいから練習台になってと家に誘ってきた時、少しだけ嫌な予感がした。けど、先輩を信じてお土産を持って伺ったら、家に入った瞬間あかんやつだと理解した。散々おじいちゃんに注意しろって言われた店名が書いてあった。家中、怪しい匂いがした。
家族総出で、私を取り囲んで勧誘された。良いものだから、購入すれば私の為になるって言われた。高いし買えないって断ったら、ローンがあるって用紙まで出してきた。高校生にローン勧めるって馬鹿だろ。曖昧に笑って、お土産を渡して、携帯のアラームを鳴らして電話をかけるふりして、おじいちゃんが倒れたと嘘をついて逃げた。あの日は、ちょっと泣いた。それからすぐ、バイトを辞めた。先輩の連絡先もブロックした。
大学に入ってすぐ、おじいちゃんが倒れた。死ぬ間際まで、まだ死ねない、おばあちゃんを探すんだって言ってた。
おばあちゃんは、お父さんがまだ小さかった頃に行方不明になった。おじいちゃんはおばあちゃんが大好きだったから、棺桶におばあちゃんの写真を入れた。親戚はみんな、おばあちゃんは死んだと思ってる。だからおじいちゃんは天国でおばあちゃんに会ってるだろうと言ってた。けど、おじいちゃんだけはおばあちゃんが生きてると信じてずっと探してた。
何回も作った行方不明者を探すチラシは、全部おじいちゃんの棺桶に入れた。写真に映るおばあちゃんは、私とよく似ていた。私はパソコンが得意だから、歳をとったおばあちゃんの未来予想図を作ったりした。おじいちゃんは、いつも嬉しそうにおばあちゃんの写真に話しかけてた。
大好きだったおじいちゃんは、骨になって帰ってきた。
「早く! 祈りなさい!」
おっと、鞭を持ったヤバい女の人がキレてる。いかんいかん、現実逃避してたわ。とりあえず、従うフリくらいはした方がいいかな?
コイツら、全員目がヤバい。
自分達の正義を押し付ける、おじいちゃんが言ってたような奴ら。この手の奴らは、指示に従わないと激昂する。神に祈るくらいなら、フリをすれば良いだけだ。
私は、正座して手を合わせた。
毎日仏壇に祈るポーズだ。おじいちゃん、この人達なんだろう。早く、お家に帰りたい。
「馬鹿にしてるのか! ちゃんと祈れ!」
えー……これ違うの?
ならやり方教えてよ。
「私はいつもこうやって祈ってます」
仏壇に手を合わせる。よくある光景だろ。なに、なんかやり方あんの? なら教えろよ。
「お前は、邪教徒か!」
「えー……なら、やり方教えてよ。誘拐犯さん」
言った瞬間、しまったと思った。けどもう遅い。シスターコリンナと名乗った女の人が、鬼の形相で鞭を振い始めた。懲罰だとか言ってるけど、こんなの単なる暴力だろ。痛いし、辛いし、声も出なくなってそのまま気を失ってしまった。
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