5話、大破から話を聞く。そして行予になる。

 唐突に目の前の女性が落ちた。何が起きたかわからなかった。大和大破さんは、地面の中に落ちていき、見えなくなった。後輩の鯉川が慌てて魔力を探る。

「地面に潜っているようです!」

「やられたな、一階で話すんじゃなかった」

 だが顔は覚えた。捜索すればきっと出てくるだろう。身分証もまだ返していない。これは大きな収穫だ。

「住所特定しましたが、数日前に退去されてます」

 それは例の仮面の魔法使いの隣町。何の因果かわからないが、これはまさに例の男が絡んでいると見て間違いない。

 これなら、仮面の男の魔法使いにも嗅ぎつけることができるかもしれない。正体不明というのは大事な場面で事をひっくり返してしまう場合がある。

 出来るなら正体くらいは知っておきたい。彼女はその取っ掛りとなるだろう。

「徹底的に調査するぞ!」

「はい! 先輩!」

 後輩の鯉川と共に、あの町の隣町まで行ってみることにする。


 しばらく地面を潜り続けてある場所の路地裏に出た。俺は彼女に叱責する。

「なんで行った?」

「そうしなければいけなかった……」

 予知夢ってやつか。

「選択はできなかったのか?」

「後になってわかったんだけど、あのままあそこにいたら、叶が危なかった」

「!?」

 俺は呼吸を整えながら、歩き話す。どうやら、携帯端末を魔法で作ってしまっていたらしい。それがバレて呼び出されたとのこと。幸い位置はバレてないようだ。こちらに来なかったことから考えてもな。だが、例えば鳴らし続けて、こちらの位置を特定してしまう可能性もある。それならば、行くしかなかったということか。

「それにしても、遅いよ? 茶葉」

「うるさいな。突然怪獣が現れたんだよ。そこからは予知だ」

 体育だったため怪獣で避難するのに俺たちは校舎に入る。その土壇場を利用して仮面とローブで姿を隠した俺は怪獣と戦いながら予知を見た。

「そしたら、お前が魔法使い事務所にいるじゃねぇか、ってなわけで残り少ない魔力でお前を助けに来た」

 幸い、怪獣が来たのが緊急だったため、早上がりになって駆けつけられた。

 結構ギリギリだったのだ。

「茶葉凄いね。魔法ですり抜けをさせられるなんて」

「お前は出来ないのか?」

「そんなことは出来ない。私は壊すことしかできないよ」

「お前まさか、魔法使い事務所潰すつもりだったわけじゃないよな?」

 俺は少し意地悪をした。恐らく俺が駆けつけるのが遅ければ……。

「大分我慢したよ」

 全く、手のかかるやつだ。まさに「怪獣」だな。

「茶葉はニューバイブルも知ってるし凄い」

「あれか、というかあれを知ってるなら、お前も大天使の燐輪、使えるんじゃないのか?」

 俺と大破は歩きながら話している。大破の話は叶から念話で聞いた。そして、ニューバイブルとやらを知ってるなら大天使の燐輪を使えるはず。ならかなりやばいだろうな。

「何それ?」

 大破は首を傾げた。俺は、ん? となった。

「お前の世界では名前が違うのか? こういうやつだよ」

 俺は、俺を撮っていた生徒の動画を見せた。

「何これ……」

 怪獣を一撃で葬る大技。それを知らないのはおかしい。ニューバイブルとやらは知っているのに……。

「これ、茶葉?」

「ああ、そうだよ」

「そういうことか……」

 大破は、むむむと唸ってしまった。

「どうやら、失敗してしまったようで、成功してるみたい」

「どういうことだ?」

「私の敵があなただった」

「は?」

 大破は順を追って説明すると言った。

「私の世界ではこういう言い伝えがある。あちらの世界(つまりこちらの世界)へ破壊しに行かねばならない。それは終末時計を進めるため、と」

 終末時計……。言い伝えでは昔、関係ないと捨てられた逸話。世界は十二時の針で終わるように終末へと向かっているという話。

「その代わり、あちらの世界では私たちに対抗する能力に目覚めるものが出る。それは常に私たちを上回る。心してかかれ、と」

 つまり大破の対抗手段として俺は目覚めたのか。意図せずこちらの世界に送り込まれてしまった大破は強大な力を持っている。それを振る舞えば俺が対抗するというわけだな。だが、大破は人を壊さなかった。隠れきったわけだ。

「だから、予知夢に従い続けた結果、いつか人を壊さなければならなかったんだと思う」

 その最初の相手それは、叶だった。叶はあのファミレスに俺と違う女友達と食事に行って殺されるところだった。

「人を壊すその最初の相手が茶葉だった」

 そうなんだな。それを俺が無理矢理、二人で食事がしたいと頼んで割り込んだんだ。俺は予知で叶が殺されるのを回避した代わりに俺が最初のターゲットになってしまったんだ。

「そして、予知夢は回避された」

 結果的に、俺は死ぬか仲間になるかその選択を迫られたわけだ。近距離では恐らく敵わない。一瞬で殺られていただろう。

 俺は大破の予知夢を回避する、つまり俺の予知で仲間になる事を約束しなければならなかった。

 だがここで、ひとつ疑問。

「お前は裏切る可能性を考えなかったのか?」

「何故裏切るの?」

「約束を破る可能性だってあるだろ」

「私たちは、破壊生物の条約というものがあり、誰かと約束をすると、破ると死ぬ。だから約束を破るということを考えたことがない」

 なんだ? そのヘンテコな条約は?

「そうか……。茶葉は約束を破る可能性があるのか……」

 そう言う大破の顔は明らかに落胆していた。大破は守らなければならないのに、俺は破る事ができる。だからこそ、悟ったんだ。彼女は怪獣、俺は人間。共生できなければ、俺が裏切ると。彼女は今にも泣きそうだった。当然だ、死を覚悟したんだ。俺に裏切られるという事は即ち死だ。

「う、裏切らないよ! 約束は守る! 俺だって血の通った人間だ。約束破るのは辛い」

「本当か?」

 大破は疑いの眼差しで見ていた。

「本当だよ」

 俺はちゃんと目を見て言った。すると、大破は頷いてくれた。

「信じるよ」

 あまり長距離を潜れなかったため、帰りは電車。とはいえ、俺たちの町へ帰る方面は空いている。

「それより帰ったらこれからどうする。顔を見られただろ?」

「問題ないよ。大和大破は壊す。有名になったからね」

 大破は持っていたポーチから、武蔵行予(むさしいくよ)と言う名の身分証を見せた。そして、自分の顔を手で隠すと、別人の顔になった。髪も違う。武蔵行予の顔になった。

「そんなのありか?」

「顔はスペアがいくつかある。替えが効くの」

 帰りに駅前の携帯ショップで、武蔵行予の携帯端末を買う。使い方を教えてると日が暮れてきた。

「遅くなると叶の家族が……、あ!」

「うん?」

「どうすんだよ……、叶の家族には大破で通ってんじゃん」

「家見つけたと連絡したよ」

「は?」

「番号はわかってたから、叶にこれで伝えた」

「どこに住むんだよ……」

「茶葉の家」

「マジかよ……」

 俺は叶に電話で事情を説明し、叶も家族に誤魔化し伝えると言ってきた。俺の家は今、俺しか住んでいない。海外転勤で家族がいないのだ。とはいえ、事情くらいは伝えておく必要がある。

「はぁ……」

 正直きつい。なんて言えばいいかわからんし。とりあえず家に着いてから行予をリビングに置いて、親に電話した。事情をほぼ喋らずに危ないところを助けられた恩人を暫く家に置きたいと頼んでみた。それを何とか許してもらい、空いてる部屋に行予を連れていき、そこを自室としてもらう。腹が減っていたので冷蔵庫から有り合わせで飯を作り、俺は二人分の食事を用意した。ここまででもう俺の体力と精神力は粉微塵になっていた。風呂入って寝よう。俺は風呂のドアを開けた。

「お?」

「うわぁぁぁ!?」

「なんだ? 一緒に入るか?」

「入るわけないだろ!!!」

 素っ裸の行予を思いっきりみてしまい、目がギンギン。ちくしょう、今ラッキースケベはいらないんだよ。

 まぁ眼福だったとして、とりあえず、服を着直す。

「リビングにいる。あがったら教えてくれ」

「わかった」

 返事を聞いて俺はリビングでジュースを飲んでいた。暫くすると風呂上がりの行予がやってきた。

「あがったよ」

「おう」

 振り返ると色っぽい行予が立っている。ちくしょう、新婚か!

 俺は脱衣所で服を脱ぎ、洗濯機に入れ、浴室に入りシャワーを浴びた。体を洗い、浴槽に入り温まる。眠気と戦い、風呂からあがり、体を拭いてパジャマに着替える。

 リビングに行予がいたので、そういえばと、質問をした。

「着替えはどこから持ってきたんだ?」

「茶葉がご飯作る前、携帯で叶に持ってきてもらった」

「インターホン鳴らなかったが?」

「事前に着いたら携帯鳴らしてもらうようにした。茶葉疲れてると思って」

 おかげで声が裏返りそうなくらい裸見てビックリしたけどな。

「もう寝る。魔力も体力もない」

「うん。私も寝る」

 俺は自室に戻り、ベッドに転がり込んだ。寝る前にある場所に電話を入れる。

「すいません、先生。明日休みます。熱があって……、はい、はい。すいません。気をつけます」

 俺は事前に仮病を使っておいた。最後の魔力で見た予知だ。明日は学校に行けない。

 とにかくこれで今日は終わり。疲れた……。

 ゆっくり昼まで寝よう。

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