4話、私は予知夢を壊してくれると信じてる。
私は一ヶ月使った新居をさよならして、叶の家に向かった。美堂の名札を着けた家。チャイムを押すと叶が出た。
「え?! 大破ちゃん、なんで?」
「今日から一緒に住ませて欲しい」
私は一生懸命お願いした。三時間程ご両親を説得した後、なんとか叶と同じ部屋に入ることが出来た。
「お金ないの?」
「あるよ? でも一人だと不安」
「なるほど……、でもそれなら茶葉の……、いやダメだな。わかったよ! これからよろしくね!」
それからお風呂に入ったりして、てんやわんやしながら過ごした。
すごく楽しかった。あの世界では体験できない事ばかりだった。でも終末時計は刻一刻と近づいている。私はこの世界で生活しなければならない。あの世界には戻れない。追放された私はもうここで生き抜くための術を見つけなければならないのだ。
電話というもので茶葉と連絡を取っていた叶が、ベッドに座っていた私の隣に座る。
「大破ちゃんは、どうしてこっちに来たの?」
「それを話すには私たちのことを少しだけ話さないといけない」
私は話した。私たちの世界はこちらの世界を破壊するために存在する。そして、王女であった私は、大切に育てられた。兵士は無限に生まれる。私が破壊する必要はなかった。だからこそ、私は生まれて二十年、破壊せずにいた。
「なんであなた達はこの世界を破壊するの?」
「それはね、そういう風に生まれるように世界が作られているからだよ」
「誰に?」
「神様に」
異世界からワープでやってくる私たち、この世界の人で言うところの怪獣は、沢山生まれる。私たちの世界でも生活圈があり破壊しない人は王宮と呼ばれるところに住む。
「なるほどね」
叶にも何となく伝わったようだ。とにかく、私も破壊せずにいたのだが、ひょんな事から私は兵士を一人破壊してしまったのだ。
「殺してしまったということ?」
「そういうこと」
私の力は強すぎた。怒りのままに顔面パンチしたら兵士の頭が砕け散った。
「……こりゃ、大破ちゃん怒らせられないな」
「そうかな?」
死んだ兵士は王女である私を怒らせたということで、私は罪に問われなかった。だが、私はタガが外れてしまったのだ。破壊せずにいた毎日が嘘のように兵士を壊して回った。兵士達だけに留まらず、平和に暮らすその世界の人々を壊して回った。
「……それでどうなったの?」
「私は破壊の兵士として強制的にこちらの世界に飛ばされたの」
人型のまま飛ばされた私はワープの中で眠っていた。そしていつの間にかこの世界に来ていて、予知夢を見た。
「それが昨日の出来事?」
「違うよ」
私は未来でこの世界の魔法使い達と戦い敗れ死ぬ。そんな未来を見た。その未来はとても悲しかった。私はなんとか、生き延びる方法がないか考えた。そして出した答えが……。
「害虫、と呼ばれる生き物を殺すことだったの」
「な、なるほど……」
まさにこの世界に無限にいる生き物。ノミやダニ、蚊など、害虫と呼ばれる生き物を殺すことだった。あちらの世界には怪獣と呼ばれる物しか存在しなかったから、渡りに船だった。
「今も魔法でここの害虫殺し続けてるよ」
「それはある意味嬉しいけど……」
「とにかく、この世界の魔法使いと敵対するのはマズイと思うの。私だって死にたくない。破壊するために生まれた私たちも、長く生きてしまうと生に執着が湧いてしまうみたい」
そこで私を叶はギュッと抱きしめた。
「生きていいんだよ。誰かを破壊しちゃダメだよ?」
「正直、虫はいいのがわからないんだけどね」
それも予知夢で授かった知恵。正直一日、死ぬほど破壊衝動が巡り苦しかった。目覚めて一日苦しんだ後、次の日に見た予知夢が害虫を殺すという手立てだった。
「それにしても神様もひどいなぁ」
叶は言う。
「だってさ? 破壊するためだけに生まれるなんて……」
「それは……」
私は終末時計のことを言いかけてやめた。
「こちらの世界とは正反対の世界だから」
こちらは創造。私たちは破壊。対になった世界。
「話してくれてありがとう」
叶は再び私を抱きしめた。全てを話したわけじゃなかったが、消灯時間のため眠る。今日も夢を見る。その予知夢はきっと未来への啓示でもあり警告でもある。
朝起きると、叶は学校の準備をしていた。私と叶は連絡先を交換して(魔法で作った携帯端末を持っている)いつでも連絡を取れるようにした。
私以外誰もいない家。どうやら叶の家族は共働きというものらしい。全員仕事と学校で出かけている。昼頃不意に携帯電話が鳴った。私は出た。出なければならなかった。予知夢がそうだったからだ。
「こんにちわ」
それは男の人の声だった。
「誰ですか?」
「魔法使い事務所のものです。今から言う場所まできてくれる?」
従う以外に選択肢はない。予知夢がそうだったから。
私は家を飛び出し、まさに飛んでその場所まで行った。ある程度近くまで飛んだ後、降りて魔力を消す。そしてその場所に向かった。
魔法使い事務所の一つ。そこは少し人が多かった。受付に、電話を受けたことを告げ待つ。
やがて男の人が現れた。
「君が携帯電話の持ち主かな?」
「はい」
「ちょっと見せてくれる?」
携帯端末を見せると、男はふむと言い、返してくれた。
「ちょっと奥で話せる?」
「はい」
私は従った。そうしなければならない。
「身分証あるかな?」
奥の部屋で大和大破の身分証を見せる。
「ちょっとこれ借りてもいい?」
「はい」
一緒に来た女性に私の身分証を渡した男性は、続けて質問する。
「単刀直入に聞くけど、君魔法使いだよね?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「あの携帯電話、魔法で作られてる。アレを拾ったならともかく、君の物だと言うなら、君が魔法使いだ」
なるほど、携帯電話は作ってはいけないのか。
「おかしな電波をキャッチしたから電話をかけたんだけど、まさか君みたいな魔法使いがいるとはね」
やがて女性がやってきて、私の身分証が正しいことを告げる。身分証は市町村の端末から偽装して作ってもらったため、魔法で出来てない。つまり携帯端末も偽装した身分証で買えば良かったのか。やってしまった。というか予知夢通りにしたのに……。
「君は魔法使い事務所に入るつもりはないかい?」
男性は聞く。私は入るつもりはない。何故なら、もしここで首を縦に振ってしまうと、私の正体がバレる危険が増す。首を横に降ると、男性は悩んだ。
「参ったな。どうしても入ってもらわないとダメなんだ。魔法使いが悪さをしたら困るからね」
「魔法使い事務所に入ってない人はいないんですか?」
「いや、一人だけ例外がいる」
恐らく茶葉のことだ。私は懇願する。
「私も例外に加えてください」
「君は怪獣が現れたら戦わないのかい?」
「いいえ、壊します」
壊す? と聞き返してきたが、スルーしてくれた。
「それなら、魔法使い事務所に入ってもいいんじゃないかな?」
「………………」
私は首を横に振る。困った。予知夢ではここでこの人を殺さなければならない。そうして逃げるのだ。でも大丈夫。きっと、この予知夢を『壊してくれる』
不意に私は地面に落ちた。ヒュンと落ちたのだ。驚きで声が出そうになったが、声が出なかった。
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