3話、俺の苦悩。
俺の名は冬雨茶葉。世間からは「魔法使い」と呼ばれる職種になれる才能を天から頂いたらしい。初日に幼馴染の美堂叶とテレパシーをしながら、初めて怪獣と戦った。周囲に魔法使いであるとバレたくなかったため、なんとか隠し通したら……、次の日未来予知の力を手に入れてしまった。そして、調査に来る魔法使いのことを知ったので、何とかその対策を立てた。それが今日に来る怪獣を利用するということ。幸い、その怪獣は彼らより強いようだった。
「でもさ、それならもっと多くの魔法使いに来てもらった方がいいんじゃない?」
叶が聞いてくる。確かにそうだ。俺が力に目覚めて、怪獣がいっぱいやってくるなら、もっと他にも魔法使いは必要だ。だが、それはそもそもおかしい。いや、ある意味正しいのか?
俺の予知ではほとんど怪獣は現れない。何体かは出るだろうが、一ヶ月の予定がガラガラなんだ。それなら、俺が戦える。俺はバレずに戦えるし、魔法使い事務所なんて面倒なとこに入らずに済む。
むしろ俺の予知では、魔法使い事務所に入った方が面倒くさい。あちこちの怪獣対応に追われる事になる。それならこの小さな町を守る秘匿のヒーローをやってる方が断然楽だ。
そうこうしてると怪獣の玉が現れた。次の瞬間大きくなり地響きと共に怪獣が現れた。
叶は双眼鏡で、怪獣を見ている。怪獣は公園に足をつけ歩き始める。
「場所を教えるのを忘れたな」
「え?! やばいじゃん!」
「大丈夫だろ。そろそろ来るぞ」
俺は魔法を使って(各地に魔法を散りばめ場所を確定できないようにしている)肉眼で確認している。
男と女のタッグが素早い動きで、怪獣の足元に回った。魔法で怪獣の足を止めている。
「鎖みたいなので怪獣の動き止まったよ」
そこから魔法当てまくる。正確には剣戟のようだった。ヒートブレイド……火の魔法剣とも言える、赤い魔法の大きな剣を振り切断を試みる男の魔法使い。女は鎖を使った魔法の鎌で怪獣の胸を貫こうとする。だが、どちらも少し削る程度のようにしか見えなかった。
「いくらなんでも、あの人たち弱すぎない?」
叶がそう言うのも無理はなかった。俺も動画で勉強した口なんだが、ああいうタイプは、ガンガン斬りまくって怪獣の足を削ぎ、手を削ぎ口を削ぎ、粉々にして核を潰す。多分だけど怪獣は頭が弱点だ。だから頭を割らないと意味が無い。
「多分……、怪獣が強いんだ」
彼らが戦ってきた怪獣とは硬さが違うのだろう。彼らの魔法密度では削れないほど。
俺は念の為仮面とローブを着けた。怪獣が光線を吐こうとしている。俺はまだ手を出さない。男の魔法使いが口元へ飛びバリアを張る。
だが、怪獣の光線でバリアを張った男の魔法使いは吹き飛んだ。
「ああ……!」
「叶、行ってくる」
「うん!」
「高貴なる神々の天の使いの者に問う、我いかなる時もそなたに忠誠を誓うが故に、そなたの崇高なる災いを呼ぶ永遠の力を使うことを承認されたく願う。その答えが如何なる難問をつきつけるものであっても、我は対する答えを持ってしても最大の力で答える。故にそなたの答えは決まっている。我に力を貸したまえ。魔の深淵を覗く最大の風で彼の足を宙に浮かせ、災厄の天使の輪において光の終わりまで焼き払え! 来い! 大天使の燐輪!!!」
俺は大天使の燐輪で怪獣を焼き払った。そして、彼らに仮面を着けた状態で近づきテレパシーを送る。
『……わかったか? 俺の言ってる意味が』
俺は疲れ果てた二人の魔法使いに言った。
『ああ、確かにこれは我々には倒せない』
『でも約束して! もし、都会に貴方にしか倒せない怪獣が現れたら助けに来てくれると!』
『まぁ……、その時は向かおう』
こうして俺は秘匿のヒーローとしてこの町に留まることなる。とはいえ、他の魔法使いも滞在することになるらしい。俺はより一層バレないようにする必要が生まれた。
そして、俺が魔法使いになって、一ヶ月が過ぎた。俺にとって、最大のピンチがここにあった。
俺はその日、叶とファミレスでランチをしていた。本当は家で漫画を読んでいたかったんだが、予知でどうしてもそこへ行かなければならなかった。そうしなければ叶が死ぬ。
「でさ〜、美月ちゃんがね。ここのティラミス食べたらしいんだけど、やっぱりどう考えてもこの店のが美味しかったらしくてね。……ねぇ? 聞いてる?」
「静かに食べろよ……」
正直、俺は出かけたくなかったんだって。こんなイベント俺には不向きだ。そして、とうとうその時がきた。
「そう言えば、あの長ったらしいヘンテコな言葉、何なの? 魔術だっけ? 大天使の何とかっていうの」
「ああ、アレは一応まだ省略してる方なんだ。本当は途中に……。この身を宿す魂尽きるまで、そなたに仕えることを誓う。終わりの時が来ようともこの世界に反する全ての敵を焼き払うと誓おう。って文が入るの」
「へぇ、なんで省略したの?」
「なんとなくね」
「ニューバイブルですね」
ふと、後ろから声がした。俺は振り返らない。
「え? あの?」
叶が驚く。
その女性の声は、続ける。
「あなた、所謂、魔法使いですね?」
あちゃー、という顔を叶がしてるのを俺は見ている。
「もしかして魔法使いの方ですか?」
叶が聞いた。
「そんなところです」
女性は答える。
「ごめん茶葉……」
「茶葉さんと言うのですね? 隣に座っても?」
「どうぞ」
俺は一言、そう言った。
叶は聞いた。
「ニューバイブルというのは?」
「バイブルは旧約聖書と新約聖書の総称だな。その更に新しい版がニューバイブルなんだろう」
俺は叶に答えた。
「だろうって、茶葉は知らないの?」
「俺はその単語は知らない」
「私達はニューバイブルと呼ぶようにしています」
女性が答える。ちらりと見ると高校生のような制服姿だった。
「お前、歳は?」
「茶葉! お前って何よ!」
俺は叶を睨みつけて、女性の方を見た。端整な顔立ちだが、あまりにも整っていすぎる。まるで作り物のような顔に見えた。魔力は感じられない。
「二十歳くらいです」
「嘘!? じゃあなんで、制服姿なんですか?」
「趣味のようなものです」
俺はふぅっとため息をつきながら学生のような格好をした二十歳の女に次の質問をした。
「名前は? こちらの名前は知ってるんだ。別にいいだろ?」
「大和大破(やまとたいは)です」
男みたいな名前だな、と俺は思った。次の質問に移る。
「お前は……、怪獣だな?」
「え?!」
叶は目を見開いて震えている。大破は、にっこりと笑った。それが答えだった。俺は慎重に次の質問をする。
「お前の……、目的はなんだ?」
「あなたに仲間になってもらいたいの」
「仲間に???」
俺はキョトンとした。怪獣の仲間に?
「正確には私の友達になってほしい。私がピンチになったら助ける。あなたがピンチになったら助ける。どうかしら?」
俺は考え込んだ。怪獣の友達……。だが、答えは決まっていた。
「いいだろう。仲間になってやる」
「ちょ、ちょっと茶葉!」
叶が慌てるが、むしろこの状況を飲み込めていないように見えるのは大破の方だった。
「ほ、本当に?」
「なんで、そこで驚く?」
提案したのは大破だ。飲み込むつもりじゃなかったら提案してこないだろう。そもそも俺はここで頷かなければ俺が大破に殺される未来が視えていた。だから頷かざるを得なかったのだ。
「詳しく説明する時間ある?」
俺と叶は頷いた。
大破は説明した。彼女は、異世界からやってきた怪獣で、この世界に着いてから予知夢の能力を得た。それから予知夢で、この世界のルールを勉強しつつ、お金を稼いだ。それがこの一ヶ月のことだ。身分を偽証し、全て整えた今日、ここで俺と話をする予知夢を見たらしい。そして、首を横に振る俺を殺さなければいけなかったというのだ。
「予知夢と違う風になったのは初めて。私はここであなたを殺す予定だった」
その顔は喜びに満ちていた。
「きっとこれで良かったんだわ。本当にあなたは約束してくれる?」
「お前が俺を殺さないと約束するならしてやるよ」
「わかった。約束する」
こうして、俺と叶は命拾いした。予知夢か……。ある意味、大破と仲間になっておいて良かったかもしれない。
「ところで、なんでそんな名前を名乗ってるんだ?」
「この国で有名になる名前だから」
「大和大破って確かになんか有名そうな名前だけど……」
叶がそう言うと大破は首を横に振り言った。
「これから有名になる名前なの」
色々話をした後、俺たちは別れて帰路に着く。俺はこれ以上厄介事はごめんだと言わんばかりに石を蹴飛ばしていじけた。
「はぁ……、疲れた」
ファミレスは陽キャが多すぎる。
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