2話、隠すなんて有り得ない。

 わたしは本当はこんなことしたくないんですけど、今こうして調査にきています。先輩の男の魔法使いと共にある学校にきている。そこは、先週怪獣が現れて大きな魔力検知が発見された近く。周辺住民に聞き込み済みなので、あと残すところはここにいた学生達の中から、魔法使いを探す。

「はぁ……」

「ため息をつくな」

 そんなこと言ったって。本来、魔法使いとは高尚な物で、成った人は漏れなく申し出てくれるものだと思うのだが、今回三日経っても申し出がなかったためこうして調査に出ている。仮面とローブを着けていた謎の魔法使い。味方なら何故名乗り出ない?

「こんなことしてる間にも怪獣は異世界からやって来続けるのに」

「だが、魔法使いは悪用もできるためちゃんと管理せねばならないものだ。何かしら名乗り出ない理由があるならこちらもそれ相応の対応をしないといけない」

 全く、誰か知らないが面倒な事だ。学校の校長の許可を頂き授業を止めて、調査をする。

 ある教室に入った時だった。明らかに違和感を感じた。

 そもそも調査に踏み切った理由が、膨大すぎる魔力検知のためだった。まさにこう言っていい、大天使クラス。それを使った魔法使いをこちらに入れるのが趣旨だ。それを、読み取っていた者がいたのだ。

『めんどくさいな』

 彼、と言える男の子の声が聞こえた。

『念話か』

 どうやら先輩と、私と、彼を繋いでいるらしい。

『先輩!』

『落ち着け鯉川。……君はどうやら、こちらの狙いがわかっているな?』

 先輩が会話を試みる。心の中での会話、念話。

「どうしましたか?」

 担任の先生が不安げに聞いてくる。

「失礼。この教室、もしかして狙われましたか?」

「あ! はい! 確かに狙われました……」

「その痕跡が残っているので、少し調査してもいいですか?」

 先輩上手い! これで調査しながら、話を聞ける。

『やれやれ、俺は長話したくないんだけどね』

 少年だろうか? もしくは教師か? どちらにせよ、魔法使い事務所に入ってもらわなければならない。

『君は魔法使い事務所には来たくないのか?』

 先輩が単刀直入に質問をする。私はそんなの有り得ないと思った。だが、返答は違った。

『そうだ、俺は目立ちたくない』

 信じられなかった。人の役に立ちたくないと言うのだろうか?

『だが、この話を知ってるか? 魔法使いのいる場所は怪獣から狙われる。君が覚醒した事によって、この町は狙われるんだ』

『それはおかしい……。例えばどのくらいの周期で怪獣がくる?』

『そうだな、二日に一回は現れると言っていいだろう』

『……なら、やはりおかしい。今日から一週間以上は怪獣が現れない』

 先輩の手が止まった。調査という名目なのに手を止めてしまってはいけない。先輩が動き出すのを見守る。

『君は……、まさか未来予知が使えるのか』

『だったら?』

『尚のこと、こちらに来て欲しい』

『俺がいなくなったらこの町を守れない』

『君でなくても交代で魔法使いが……』

『俺でないと守れない。これは確実だ。例えば、さっき女の声が聞こえたが、そいつでは確実に負ける』

 わたしの事だ……、心外だ。これでも優秀な魔法使いだ。

『なら鯉川に一週間後にくる怪獣と戦ってもらう。それで勝てたらこちらの条件を飲んでもらえるか?』

『それじゃあ、ダメだ。オッサン、あんたも戦闘に参加しろ。それでも勝てない。その時俺が出て俺が倒す。それでそっちは納得できるか?』

『……いいだろう。上に掛けあおう。君の名は?』

『名乗らないでおくよ』

 しばらくしても念話が届いてこないので終わったらしい。わたしは魔力検知を試みていたが、あちこちから反応があり、どこがメインかわからず居場所を特定できなかった。かなりの使い手らしい。とはいえ、それこそ、こんな町ではなく都会で大怪獣と戦う使命があると思う。なんとしても一週間後に怪獣に勝たなくては。

『一つ言い忘れた』

 不意に声が届いたためわたしはビクッとなった。

『再来週の日曜日の昼。それが次の怪獣の出現日時だ』

『わかった。ありがとう』

 今度こそ念話が切れ、嘘の調査も終える。学校を後にしたわたしと先輩は、ファミレスに入って食事を取りながら作戦を練った。仮面の魔法使いが何故正体を明かさず、魔法使い事務所にも入りたくないのかは分からないが、絶対に仲間にしてみせる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る