秘匿の現代最強魔法使い
みちづきシモン
1話、彼は目覚めた。
『ハロー! テステス……』
穏やかな春の陽気に誘われて、変な幻聴が聞こえてきた。高校の入学式を昨日終え、初めての授業。頭に響くその声の主が誰かがわからなかった。
私はキョロキョロと辺りを見渡してみる。誰も私に声をかけてない。
『オーケー! 聞こえているな? 叶(かなえ)』
美堂叶(みどうかなえ)それが私の名前。キョロキョロしたことで聞こえていることを確かめたという事は見える位置から話しかけているのか? いやそもそも、なんなんだこれは?
『疑問は尤も。そこで慌てふためくようなやつじゃないのは幼馴染だから知っている』
冬雨茶葉(ふゆうちやは)、女みたいな名前なのに男の幼馴染。真っ先に思い浮かんだのがこいつだった。
『正解』
何? 超能力にでも目覚めた? と、まぁ過去の人なら驚くんだろうけど、今は違う。未知の「怪獣」が異世界から現れて数日後、力に目覚めた人を、人々は「魔法使い」と呼んだ。
つまり茶葉も力に目覚めたわけだ。
『正解だよ。ただ一つ、頼みがある』
何? 頭の中覗いてるのはわかってる。いい加減にしないと、ビンタするよ?
『この力を俺が持ったこと、誰にも言わないで欲しい。内緒にして欲しいんだ』
私は疑問が頭に浮かんだ。なんで? 目覚めたことは、いい事じゃん。目立つし、チヤホヤされるし。きっと素敵な人生送れるよ。「魔法使い」は給料も良いって聞く。
『それなんだがな、俺は目立ちたくないし、チヤホヤされたくないし、給料は別に稼げるし』
うーん、そうなんだよなぁ……。茶葉って、陰キャで友達が私以外いないし、話しかけられると大抵キョドるし、おまけにこいつ秘匿のアカウントで小説書いてて、まぁ売れっ子なのよ。なので、お金には困ってないという。参ったね。私ならすぐさま、「魔法使い」事務所に駆け込んで「怪獣」と戦う使命と共にお金もらうとこなんだけどね。
ちなみに魔法使いにも色々あって、どんな魔法が使えるのかとかは人によるらしいんだけど、茶葉はテレパシーを使える魔法使いなんだろうか? あまりよくわからないが、最近活躍して戦果を上げた魔法使いは、雷使いだった気がする。
『俺は穏やかな日常を送りたいんだよ』
やれやれ。わかりましたよ。黙っておくよ。
『サンキュー!』
その代わりと言ってなんだけどね。あまり人の頭の中を覗かないこと。それだけは守ってほしいかな。
『会話をするためには必要不可欠なんだよ』
それでも最低限守って欲しいことだよ。まぁ、怪獣と戦うわけじゃないだろうし、黙ってれば何ともないだろうから、安心してよ。
『昼ごはんのことを考えるのはやめた方がいいぞ。まだ一時限目だ』
うるさいなぁ! そういうとこだよ!
私はため息をついて、授業に臨む。ちなみに、怪獣はこの町に現れたことはない。ここは都会ではなく、少し田舎に近い雰囲気の町だが不便ではない。田んぼを耕してる農家も、少し郊外へ行けばある。なので、魔法使いと呼ばれる人と出会うこともない。そんな中目覚めた茶葉が注目を浴びるのは目に見えてる。それを嫌うのもわかるから、本人からバレることをしなければ、黙っていようと思う。
別に怪獣なんて現れないだろう。こんなのどかな町でさ。そう思って窓際の席の私は外の風景を見た。
……何か黒い点のようなものがあった。私の目に映っていたのは恐らく遠くの景色にある黒い点だけど、それが徐々に大きくなる。
なんだ? 何かが起きてる。
気づくとそれは大きな音を立てた。突然巨大な何かが現れたというか、恐らく黒い点が急激に大きくなったと言うべきなのか。とにかく、恐竜を模したような何かが現れて地響きと共に叫び声を上げた。
皆、何が起きたか分からないといったふうに窓を見たと思う。悲鳴が聞こえた。生徒がパニックに陥ってる。
まさか! なんで今頃? いや、むしろ今まで来なかったのがおかしかったのか?
私はちらりと茶葉の方を見てみる。ぼんやり窓の外を見ていた。
『そのまま聞いてくれ。俺に考えがあるんだ』
そうか! まさか戦えるのか?
『ああ、だけど……、俺がやったとバレたくない』
ここにきて、めんどくさいやつだな! そんな場合じゃないんだよ! 誰かが怪獣と戦わなきゃいけない。怪獣対策本部は割と遠い。すぐに来てくれるかわからない。
『だから細工をする。俺は今からここから動かない。そういう幻覚を作る』
ふーん? よくわからないが、とにかく聞こう。
『そして、仮面とローブを着た謎の男が戦う。それが本当の俺だ』
なんでもいいから、早くやってよ! 怪獣で被害がでちゃう!
怪獣は既に町を歩いている。車や人が押しつぶされてなければいいけど……。
ふいに怪獣がこちらを見た気がした。こちらの方を向いたのだ。口を開けて何か光が……、やばい!
光線を放った怪獣。私たちの校舎は……、無事だった。謎のバリアが張られている。
『危なかったな。まさか気づいたのか?』
怪獣は明らかにこちらに気づいてる。早く謎の男になれよ!
『落ち着けって、今着替えてる。魔法で作った仮面とローブ着たから見てくれる?』
ふと、茶葉の方を見た。すると茶葉の後ろに確かに仮面とローブで体を隠した男がいた。慌てて声が出そうになったのを口を抑える。
その男は光の羽を生やし飛んで壁をすり抜けていく。そして、怪獣の前まで出たところで止まった。すると……。
「あ! 魔法使い様だ! 魔法使い様が来てくれたぞ!」
「飛んでるわ! 凄い!」
ああ、今他の人に見えるようにしたのね。ふと思いついたので茶葉に話しかけてみる。
「冬雨君大丈夫?」
「今話しかけないで」
ふむ、話はできるのか。とにかく、外を見る。謎の男が怪獣と向かい合っている。
『さて、とにかくやってみるか』
もう一人のというか、本物の茶葉からまるでミサイルを連発して撃つように炎の玉を連射する。空中に浮かぶ彼の手から火の玉が出ている。本当に魔法使いになったんだ。
だが、怪獣はビクともしない。こちらに進もうとする。地響きがする。
ふと、地響きが止んだ。怪獣が止まったのだ。
『足を氷で止めた』
それなら氷漬けにしてみたらどうだろう? 火の玉は効果があるように見えない。
『氷漬けはダメだろう。そういえば、雷か……』
今は晴れている。雷なんて……。
だが、本物の……、仮面とローブを着た彼は、手を上げた。不意に怪獣の上からイナズマが走った、それも何発も。流石に苦しがってるようにも見える。だが、決定打に至らない。
周りを見ると生徒たちがスマホを掲げて動画を撮っている。LIVEにしてる生徒もいるだろう。バレたらやばい!
早く決着つけて! なんとかならないの?
『仕方ない……。どうしてもあの技を使わないといけないらしいな』
何か策があるのね? なら出し惜しみせずやりなさいよ!
『この技は魔法とは違う。魔術なんだ』
どう違うっていうの? 魔法も魔術も、同じ魔法でしょ?
『魔術とは、何かしらの準備がいるものなんだ。そして、これは詠唱を必要とする。その間、俺は動けない』
何それ? やばいじゃん!
『俺は事前に自分にバリアを張ってるから大丈夫だ。だけど、他が狙われるとヤバい! 賭けになるがこれしかない。こっちを向いてるのは好機だしな』
もう祈るしかないのね。神様でも仏様でもなんでもいい。とにかく上手くいってほしい。
『いくぞ! 高貴なる神々の天の使いの者に問う、我いかなる時もそなたに忠誠を誓うが故に、そなたの崇高なる災いを呼ぶ永遠の力を使うことを承認されたく願う』
そうこうしてるうちに、怪獣は口を開けて光の光線を放つ。茶葉に当たるがなんとかもっている。
「おい、やばいよ? 防戦一方じゃん!」
「あの魔法使い様、初心者なのかな?」
「俺たちどうなるの……?」
生徒達が慌てふためいている。
「大丈夫!」
私は声を上げた。
「きっと彼が何とかしてくれる!」
茶葉、頑張れ!
『その答えが如何なる難問をつきつけるものであっても、我は対する答えを持ってしても最大の力で答える。故にそなたの答えは決まっている。我に力を貸したまえ。魔の深淵を覗く最大の風で彼の足を宙に浮かせ、災厄の天使の輪において光の終わりまで焼き払え! 来い! 大天使の燐輪!!!』
光線を撃ちまくる怪獣が不意に宙に浮いた。そして浮いた怪獣の下と上に大きな輪っかが出る。そこから光が立ち上り、怪獣を……焼いた。まさに光のケース。怪獣が光の中で身が焼け骨になり骨まで溶けていく。そして光だけになった時、輪っかは小さくなっていき、消えた。
怪獣は跡形もなく消えていた。生徒達は歓声をあげた。
やったね、茶葉。そう思って茶葉の方を見る。
なんか薄い! ねぇ、なんか薄くなってるぞ???
本物の茶葉は消えた。幻覚の方の茶葉が薄くなってる。どういうこと?
『ちょっと待って。どうやら魔力を使い過ぎたようだ』
エネルギー不足か。
『着替えるから待って』
そういいつつ、着替えてる姿がうっすら見えてくる。やばいやばいやばい! 急いで! ていうかパンツ可愛いな! モンツポケのモンスターの柄じゃん!
まだ生徒達は興奮して窓の方を見て騒いでいる。幸い、茶葉はドア側だ。気づかれない。幻覚の茶葉薄くなって動かない。本物のうっすら見えてる茶葉は光の羽も消し、ローブと仮面を外し光のように消して制服に着替えてる。
ていうか脱ぐ必要あった?
『制服が万が一にもバレたらやばいじゃん』
ていうかテレパシーにも魔力とやらを使うんじゃないの?
『まぁね』
とにかく服を着た茶葉は席につき、幻覚を解いた。急に茶葉が動く。
「ふぅーーー」
茶葉が長いため息をついた。
「どうしたの? 冬雨君」
女子の一人が尋ねる。
「い、いや、凄かったなーってね」
そこでテンパるなよ。バレるぞ?
『女子に喋られるのはきついんだよ……』
私には平気なのにね。全く、これだから陰キャは。
「と、とにかく、席につきましょう、皆さん。今から自習にします!」
担任の月影先生が皆を落ち着かせる。皆は席につき各々喋り始める。
ほんと、こういう時言いたいよね。なんて日だ! ってね。
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