第2話 岡﨑と岡﨑

目を開けると2人は有隣堂の店の中にいた。窓の外は暗く、人の気配もなかった。雑然と段ボールが置いてあり、2人がいる部屋の電気だけがついている。

「え?どういうこと?」

「さぁ・・・どうしたんでしょう。」


あたりをキョロキョロと見回し、岡﨑はあることに気がついた。

「配置がいつもと違いますね。この棚・・・昔あったやつっぽいです。」

「えぇー!?」


2人がいる場所は、いつも撮影をしているスタジオがあるはずの場所であった。

しかし、物の配置が全く違い、明らかにいつもと違う雰囲気が漂っていた。


「電気がついてるってことは、誰かいるってことっしょ!?」

おーい、と声を出しながらブッコローが段ボールの山をかき分けて進もうとしたその時、誰かが入ってくる気配を感じ、とっさに2人は大きい段ボールの後ろへ身を隠した。入ってきたのはおなじみの有隣堂エプロンをつけた女性だった。


「・・・え、私?」


入ってきたのは岡﨑弘子だった。

もっと詳しく言うと、何年か前の岡﨑弘子であった。


「え、ちょっとザキさんどういうことよ!?誰あれ!?分身!?」

小声でブッコローが詰め寄る。

「えー・・・そんなこと言われても・・・。でもあれ、私ですよねぇ。」


何年か前の岡﨑であろう女性は、2人に気づかずブツブツと何かを唱えながら本を読んでいる。よく見ると、いや、よく見なくてもその女性は岡﨑であることに間違いなかった。


「A4のサイズは210mm×297mm・・・」


「あ・・・。わかりました。」

「え、何がよ!?」

「これ、TVチャンピオンに出る前の私です。」

「はぁ!?!?」


思わずブッコローが叫んだ。同時に岡﨑であろう女性の目が2人を捉える。

「あっ・・・見つかっちゃったよォ〜」

ブッコローが今にも泣きそうな声でカラフルな羽角をバサバサと振り乱した。


「あなたたち・・・あ、あれ、私ですか?なんだかちょっと老けてません?というか、その鳥しゃべってますよねぇ。」

「ちょっと、失礼ですねぇ。それとこの方は、R.B.ブッコローです。」

2人の岡﨑が顔を見合わせた。おかしな状況にも関わらず2人ともニヤついている。ブッコローはザキさん、昔からこの笑い方変わらないんだなぁと思った。


「あなた、TVチャンピオンに出る前の私ですよね。」

「そうですね。」

「ザキさん、なんでわかったの?」

「だって、決勝戦の前の日、私ここで文房具の勉強してたんです。」


岡﨑が言うには、TVチャンピオンの文房具王決勝戦前日、勝たなくてはというプレッシャーから徹夜で有隣堂に篭り、文房具について勉強をしていたという。

つまり、岡﨑とブッコローはTVチャンピオンの決勝戦前夜の岡﨑に会っているということになる。


「でもなんで、急にタイムスリップなんかしてんの?俺たちさっきまで文房具博に行って・・・あーッ!あの鳥!インクっすよ!ザキさん!飲めるインク!あの変なインク飲んだからじゃないっすか!?」

「ありえますね・・・。」


何年か前の岡﨑は呆然と2人の会話を聞いていた。内心、明日のことで頭が一杯であった。眼鏡の奥では眠気で目が半開きになっていた。


「っつーことはよ、ザキさん。今のザキさんは明日の決勝戦で何の問題が出るかわかる訳じゃん!?過去に来ちゃったもんはしょうがないからさー、せっかくなんだし昔のザキさんにアドバイスしたらよくないすか!?そしたら文房具王になれるかもよ!?」


「えぇー!?」

2人の岡﨑が目を見開いた。

「つまり、歴史を改竄しちゃうってことですか?」

「大げさに言ったらそうっスけど、大したことじゃないから大丈夫じゃないっスかぁ〜?」

ブッコローは他人事だと思っているのか、とても楽しそうだ。


「文房具王に、私はなります!」

2人の岡﨑は握りこぶしを掲げた。本人は興奮気味だが、側から見るとなんだか覇気の無いガッツポーズだった。

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