文房具王に、私はなります!〜岡﨑と岡﨑〜

お茶の間のデンキウナギ犬

第1話 レトロピンク

「・・・う〜ん、ここは何処でしょう。」

「ちょっとザキさん、何やってんすかァ〜!」


岡﨑弘子は迷子になっていた。毎年楽しみにしている文具女子博に、〝有隣堂しか知らない世界〟の共演者 R.B.ブッコローと取材も兼ねて一緒に来たはいいものの、初めての会場で右も左もわからずただ人の波に流されていた。


「ブッコロー、鳥なんだから飛んでちょっと見てきてくださいよ。早く行かないとお目当てのインクが売り切れちゃいます。」

「無理だって!こんな可愛い鳥が会場内飛んでたらみんなパニックになっちゃうって!てか体重2kgもあるのに飛べると思う!?」


R.B.ブッコローはミミズクである。こんなところにミミズクがいるというだけで随分と目立つのに、カラフルな羽角が人目を一層引きつけており、威勢の良い声が会場にこだまする程響いている。


その声に反応するように、2人の周りに人がどっと押し寄せてきた。

「有隣堂のYouTube、観てます!」

「ブッコローだ!すごーい!」

あっという間に2人の周りを文具女子たちがとり囲んだ。


「みんな、ありがとね!YouTubeの登録よろしく〜!私とザキさん、用事あるんで!ほらザキさん急いで!」

ブッコローに促されるまま2人は人の波をかき分け、なんとか人目の少ない奥まったブースへたどり着いた。

ここは本当にブースなのか?というくらい人の気配が無かった。


「んで、ここ何処よ?」

「わぁー、素敵ですね。このインク、飲めるんですか?」

「ちょっとザキさん聞いてる?」


人気のないブースの一角には、フクロウに似たトリがぽつんと一羽座っていた。その鳥は笑顔でコクコクと頷いている。どうやらこのトリが、飲めるインクを売っているようだ。


〝飲めるインク、もちろん書けます 

レトロピンク フューチャーブルー 各1000円〟


「レトロピンク、ください。」

岡﨑すかさず財布から千円札を取り出していた。レトロピンクとは素敵なネーミングだなぁ、きっと発色もくすみがかった綺麗なピンク色なんだろうなぁとホクホクしていた。

「うおっ、ザキさんさすがっすね!即決じゃん。早速ちょっと飲んでみましょうよ!何味なの、これ?」

ブッコローはインクの色よりも、それが飲めるということに興味津々の様子だった。


ブースのトリはニコニコと笑っていた。岡﨑は少し迷った様子を見せたものの、蓋を開けるとインクからあまりにもいい香りが漂っていたため、自分の手のひらとブッコローの羽に少しだけインクを垂らし、口をつけた。インクはとても甘く、思わず2人は目を閉じた。


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