第12話 後日談

 翌日。事務所には涼と偽物——いや、もう“偽物”と冠する必要性は無いだろう——フォックスガールが来ていた。

「昨日、あの後二人で話し合って、お互いに協力し合う事になりました」

「あの神社の縄張りの範囲内でしかこの格好でいられなかったのが、あなたに縁を切られたお陰で行動範囲が広がったの。これからはも~っと涼のお手伝いするね!」

「う、うん……」

 あれからここに来るまでに何があったのかは知らないが、フォックスガールがやけに涼に懐いている。と言うよりベッタリしすぎて涼が狼狽えている。

「それで、悪い人相手でもなるべく攻撃はしない、と約束したので、基本的にはこの子はこの子で自由に動き回ってもらおうと思います。私が助けが欲しいと思ったら、すぐ来てくれるみたいなので……」

「あなたの掛けた契約魔法のお陰でね、何かそういうのがすぐに分かるの。ピンチの時はすぐに駆け付けるからね~!」

「あ、ありがと……」

 何はともあれ、円満に解決したようでなによりだ。仲良き事は美しきかな。

「探偵さん、本当に色々とありがとうございました。ここに来られてよかったです」

「いえ、こちらこそそう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます」

「あの、迷惑でなければまた来てもいいですか? キャットガールの事を相談できる人って、お姉ちゃんくらいしかいなかったので……」

「ええ、もちろん。いつでもお越しください。遊びに来るだけでも全然構いませんよ」

「翠さんに魔法を教わるとか、勉強を教わるとかでもいいですよ!」

 と言ったのは、少し離れた場所に座って夏休みの課題を進めていた美香だ。

「まぁ勉強は覚えている範囲内で、ですけど……どんな用事で来ても大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

 それから二言三言言葉を交わして涼とフォックスガールは事務所を後にした。

「良いコンビになりそうですね。あの二人」

「うん。そうだね」

 偽物が現れた事の不安が無くなり、涼の顔は一昨日初めて会った時よりも、憑き物が落ちたようにすっきりとして見えた。もっとも憑かれ具合で言えば今の方が憑かれているのだが……それはそれ。

「あの~、ところで翠さん。ここに来た時から気になってるものがあるんですが……」

「ん? 何?」

「隅に置いてある段ボールの山。あれ、何ですか?」

 美香が指差した先にあるのは、沢山の段ボール。

「あー……食料。お米とか、野菜とか、油揚げとか。迷惑掛けたお詫びだって」

「あのフォックスガールから貰ったんですか?」

「ううん。何て言うか、その……元上司? 偽物騒ぎが起きたのは自分のせいでもあるから、って」

「はあ……?」

 これだけの量があれば、暫くはお米を買う必要は無い。野菜は傷みやすいものから先に消費していこう。油揚げは……。

「きつねうどんでも食べてく?」

「え? いいんですか? 食べます!」

 これを送ってくれた神様に感謝しつつ、美味しく頂くとしよう。


 それからまた数日経った頃、巷ではフォックスガールが二人いるという噂が流れだした。正しくはフォックスガールが二人いるのではなく、キャットガールとフォックスガールがそれぞれ一人ずついるのだが、それを知る者は彼女達の秘密を守る為に敢えて訂正はしない。ただ時折、彼女達と共に撮った写真を見て、あの日の事を思い出すだけだ。

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紫野原魔法探偵事務所録 みーこ @mi_kof

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