第7話 夜

 その日の夜には、残り二人の魔法使い仲間からも返信が来ていた。

『ごめんね~! これだけだとどこか分からないわ。フォックスガールに会えるといいね!』

『後ろにあるのは伊里いざと稲荷だね。ここでもフォックスガール出たんだ。翠さんって魔法少女好きなんだっけ? それならフォックスガールも気になるよね。出待ちチャレンジファイト!』

「んんん……」

 どうにも私がフォックスガールに会いたくて会いたくてたまらない人みたいに認識されている気がする。次彼らに会った時、絶対ネタにされる。仕事上の都合だと説明すれば理解してもらえるだろうが……。

(ニヤニヤ笑いが目に浮かぶ……)

 それはさておき偽物フォックスガールの出没場所がもう一つ判明した。伊里稲荷。地図で確認すると、そこは本物である犬飼涼、キャットガールの活動範囲と被っていた。ついでに言えば、偽物に涼と会ってくれないかと頼んだ時に、彼女が指定してきた場所だ。恐らくはそこが彼女にとっての“家”なのだ。

 私が涼に会ってほしいと言った後、彼女はやけにあっさりと「うん。いいよ」と言った。そしてこう続けた。

「ていうか、あなたが伊里稲荷に来ればいいだけだから。朝早くに」

 初めはどういう意味か分からなかったが、少し考えれば簡単な話だ。

 犬飼涼は朝早くに伊里稲荷に来ている。

 偽物の本拠地が伊里稲荷と仮定して、彼女が涼の匂いを知っているとなれば、それはつまり匂いを覚える程には涼がその場所を訪れているという事。で、早朝に涼が来ているからその時にお前も来い、という訳だ。

 実際に偽物に会ったところ、悪い人ではなさそうだという印象を受けた。彼女自身も悪い事はしない、手伝いをしたいだけだと言っていた。だがそれでも本当に善人かどうかは分からない。誰の心にだって善と悪は存在する。それが悪い事だとは気づかずに悪事を働く人もいる。善意でやったつもりが、相手にとってはいい迷惑だった、なんて事もある。それに彼女は私よりも魔力が強い。油断はできない。

 私は電話を掛けた。

「もしもし、翠です。——明日の朝って空いてる? ——うん。だいぶ早くて申し訳ないんだけど、六時頃に事務所に来てくれるかな。——ごめんね、こんな早くて。無理なら無理で大丈夫だから——本当に? ありがとう。——うん。それじゃあ明日、よろしくね」

 よし。これで一人増えた。

「もしもし、こんばんは。翠です。——先程はありがとうございます。おかげで助かり——いや、仕事です。仕事。——仕事なんですってば。それでもう一つ頼みがありまして、教えてくださった場所に、朝五時に来ていただけませんか? ——ええ、もう、それでいいです。出待ちチャレンジです……。——ありがとうございます。詳しい事は明日話しますので、よろしくお願いします」

 同様の電話をあと三人にも掛けた。手勢が増えれば万が一の事が起きても安心できる。しかし、だからと言って何でもかんでも他人任せにはしない。これは私の仕事だ。人に協力を頼むのであれば、私が指揮を執らなければならない。私が指示を間違えれば、皆に危害が及ぶ可能性だって……。

(いやいや、待て待て)

 最悪の状況を想定するのが駄目とは言わないが、重く受け止めすぎるな私。サツキだって言っていた。「一人じゃできなくても、みんなでならできる事だってあるよ。ウヅキちゃんが失敗しても、わたしたちがカバーする。失敗を恐れないで」と!

(私だけだと不安だから電話したんでしょうが。頼ればいいんだよ、頼れば)

 大丈夫だ。皆優しい人達だ。動画の場所が分かるかと聞いたら教えてくれた。もう夜なのに、明日の早朝に集まってほしいと言ったら行くと言ってくれた。ならば私はその善意に答えればいいだけだ。

(よし! やるぞ!)

 私は決意を新たに、明日の準備を進めた。

 さあ、ゲームの始まりだ!

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