第6話 偽物との邂逅
魔法使いをはじめ、妖精や妖怪といったファンタジーな存在は皆その身に魔力を宿している(種族や分野によって呼び方に違いはあるが、ここでは魔力と呼ばせてもらう)。魔力というものは通常空気の様に目に見えないものだが、訓練をして見えるようになった人や、生まれつき見える人もいる。私は後者。つまり生まれつき魔力が見えるのだ(ただし普通の家庭で生まれ育った為、それが魔力だと知ったのは小学校六年生の頃)。
魔力の見え方は個人差があるようだが、私の場合は色のついた靄の様に見える。例えば魔法少女の格好はしていてもファンタジー側の人間ではない犬飼涼の周りには靄も何も漂っていないが、二か月程私から魔法の手ほどきを受けている羽山美香の周りには赤色の靄が薄っすらと漂っている。そしてこの偽物フォックスガール。山吹色の靄がはっきりと見える。最早濃霧だ。濃く見えるという事は、それだけ魔力が強い証だ。
(大丈夫かな……)
偽物フォックスガールは彼女が窃盗犯と呼んだ男性から荷物を受け取り、元の持ち主なのであろう女性にそれを渡している。本物のフォックスガールに倣ってそうした行動をしているのであれば悪人ではないかもしれないが、目的が分からない以上は油断できない。善人と見せかけて、裏では強い魔力を使って悪事を働いている……なんて事も、ありえない話ではない。その場合、私の魔力で対抗できるか不安だ。私は自分を安心させるように胸元に手を伸ばし、そこである事に気がついた。
(……これマジカルペンダントだ)
今朝届いた時にいつも付けているペンダントと付け替えてから、今までずっとサツキのマジカルペンダントを首にぶら下げたままだ。これはこれで勇気を貰えるが、これはただのペンダントだ。本物の魔法のアイテムではない。“あれ”があれば強い相手でも安心だが、無いのであれば今のところは接触を避けた方が無難だろう。
私は偽物フォックスガールに気づかれないよう、それとなく動向を注視した。ファンサービスのつもりなのか、彼女は握手や写真撮影に応じている。
(やっぱり悪い人ではなさそう?)
素直に言う事を聞いてくれる人であるならば、本物である涼に引き合わせて話し合いで解決する方法もある。街の平和を守る者同士、手を取り合って協力すれば、損をするのは犯罪者のみ。悪い話ではないはずだ。
しかし、ただ一つ気掛かりがある。彼女の正体だ。
彼女はこの街に住む魔法使いではない。私も、私以外の四人の魔法使いも、その身に宿る魔力は山吹色ではない。私の知らない内に魔法使いが増えている可能性もあるが、魔法使いの社会は狭い。魔法使いが増えればその噂はすぐに広まる。近頃は私が美香に魔法を教えているという噂以外は流れていないはずだ。とすれば彼女は別の街に住む魔法使い、もしくは別の分野の何某さん。だが私の勘はこう告げている。
(人外、かな)
もしかしたら、とは思っていたが、本当に妖狐の可能性がある。魔力の色もそれっぽいし。
そうなると今度はどういう類いの妖狐なのか、という疑問も出てくるのだが、今それを考える余裕は無い。
「あなた、さっきからずっと見てばかりいるけど、握手とか写真とかいいの? 恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」
「あ、えと……」
偽物フォックスガールにロックオンされた。白い狐面の奥からじっとこちらを見ている。
「じゃ、じゃあ、写真、いいですか?」
「もっちろん!」
まぁ、ここはファンのふりをして対応した方が、かえって怪しまれないだろう。私は鞄からスマートフォンを取り出してカメラを起動させた。
「どうする? ピンで撮る? それとも一緒に撮る?」
「ピンでお願いします」
「オッケー! 可愛く撮ってね!」
彼女は意気揚々とポーズを取る。慣れているのか、ポーズの取り方が堂に入っている。コスプレイベントにでも来たみたいな気持ちになる。
私はカメラを構えて彼女の写真を撮った。一枚だけ、と思っていたのだが幾つかポーズを披露してくれた為、その分だけ撮る事になった。
「ありがとうございます」
「うん。どういたしまして! ……あ、ちょっと待って」
写真を撮り終わり去ろうとした私を彼女は呼び止めた。とことことこちらに歩み寄り、顔を私の首元に近づけてきた。ふわりとお香の様な匂いが鼻をくすぐった。
「……やっぱり」
彼女は何か確信めいたようにそう言った。
「あ、あの……どうかしましたか?」
「これ、マジカルペンダントだよね?」
「⁉」
まさかの同類⁉
「この色はサツキちゃんだよね? 魔法少女ウヅキ好きなの? 私ナガツキちゃんが好き!」
こちらが口を挟む余地も無い程矢継ぎ早に言われ、私は気圧された。凄く、ぐいぐい来る。ちょっと苦手なタイプかもしれない。
そんな私を見て偽物フォックスガールははっとした表情を浮かべた。
「あ、ごめんねいきなり色々言っちゃって。こういう話ってなかなかできないから、つい興奮しちゃって。興奮しすぎて尻尾が出ないように気をつけなきゃね」
「え……?」
「あは。びっくりしてる」
そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。
「心配しなくても、悪い事はしないよ。私はあの子のお手伝いをしたいだけだから」
「……気づいてたんですか」
「あなたからあの子の匂いがしたし、それにあなたの噂は聞いてるもん。二つを繋ぎ合わせて考えたら、あの子があなたに相談しに来たんじゃないかって思ったの。あなたのその反応、正解って事だよね」
「ええ、まあ」
匂いで分かるとは、余程嗅覚が良いのか、それとも魔力の様なものなのか。だがそこまで分かっているなら話は早い。
「あの子……犬飼涼さんと、一度会っていただけませんか?」
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