第4話 調査開始
その日の午後、私はパソコンの画面と睨めっこをしていた。フォックスガールが写っている写真や動画を調べて、どれが本物でどれが偽物か見極めようとしたのだが……これがなかなか難しい。涼からも偽物が写っている動画のURLを幾つか送ってもらったのだが、猫耳なのか狐耳なのか判別しづらい。アップでハッキリと写っていてくれると嬉しいが、そうした写真や動画は滅多に無い。私がこの目で見れば“確かに別人だと分かるもの”もカメラを通してしまっては見えない。
「はぁ……」
疲れた。
偽物についての手掛かりが何もない訳ではない。魔法使いではない犬飼涼がここに相談に来た。それ自体がある種のヒントだったりする。何故ならここは“魔法”探偵事務所。扱うのは魔法絡みの依頼のみ。魔法絡みの悩みがなければここには来られない。偽物の出現に悩んでいた涼がここに来たという事は、その偽物が魔法使い、もしくは魔力を持った何かしら。偽物が妖狐である可能性も無きにしも非ず。良くしてやれば何かくれるかもしれない。
「おっと」
下心を芽生えさせていたら、メッセージの通知音が鳴った。涼からだ。画像が添付されている。早速その画像を開くと、この街の地図が表示された。その一部分が赤い丸で囲まれ、同じく赤い文字で「この辺りで活動しています」というメモが書いてある。彼女達が通う学校からは少し離れた場所だ。学校の最寄り駅とは反対側。電車通学をしている美香から聞いた話では、涼は電車組とは違う方向から学校に来ているとの事だから、キャットガールの活動圏内は涼の生活圏内でもあるのかもしれない。
(……何で生活圏内であんな格好を?)
やっぱり何で魔法少女の格好をしているのか、聞いておけばよかった気がする。
だがそれを聞く機会はまだある。今は偽物フォックスガールの見分け方を……。
「あ……」
ふと、思い立った。今までお面の違いばかり探ろうとしていたが、違うのはお面だけではないだろう。お面が違うなら、服装だって違うはずだ。涼が着ている魔法少女のコスチュームはオリジナルのものである。涼自身が作ったのか誰か他の人物が作ったのかはさておき、間近で見ると装飾が凝っている事に気がついた。ふんだんに使用されたレース、素材の違う生地を二種類用いて作られた胸元のリボン。写真や動画で見ただけであれと同じものを作るのは難しいだろう。もし作れたとしても、簡単に真似できないものだってある。身長だ。涼は女性にしては背が高い方だ。165センチメートル以上、170センチメートル以下、といったところだろう。偽物が相手を完璧にコピーできるような能力でも持っていない限り、違いは沢山ある。
「よし!」
私は気合を入れ直して再度パソコンの画面に向かった。
偽物の動画を注意深く見ていると、先程思い浮かんだ違いが見えてきた。コスチュームの装飾は本物よりも簡素。身長も大して高くはない。よく見れば髪の長さも違う。そして肝心のお面の違いは……。
(……微妙にこっちの方が、耳が長い……かも?)
なんとなくしか、分からなかった。
それでもこれで確かに偽物が存在している事も、見分け方も判明した。後は偽物がどこに出没するか。偽物フォックスガールが写っている写真や動画の中に、分かりやすい目印となるような建造物があれば御の字だ。涼は偽物について「行った事の無い場所にいた」と言っていた。となれば彼女の活動圏内よりも的は広い。これはこれで難しそうだ。面倒ではあるが、片っ端から動画の撮影場所を調べるしかない。
「はぁ……」
やる前から疲れた。私が探偵事務所を開業してからの月日と、この街に住んでいる月日は殆ど同じだ。つまり二か月くらい。だからこの街のことはそう大して詳しくない。自分一人で調べるのは無理がある。こういう時は人に頼るに限る。
私はこの街に住んでいる魔法使い仲間達にメールを送った。偽物が写っている動画を添付し、この場所に見覚えがあれば教えてほしい旨をそこに書き記す。
(これでよし、と)
返事が来るまで少し休憩しよう。
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