ずっしり重い

小湊セツ

ついでに愛も重い

 獣人とは満月の夜に獣と化す人々のことである。人間の頭脳と魔力、獣の五感と筋力を兼ね備えた頑強な種族であるため、古来から人間に恐れられ迫害されてきた。ゆえに、多くの獣人は、獣人であることを隠して生きている。


 サフィルスの二人の友達もまた、人間に紛れて隠れ住む狼の獣人で、満月の夜は漏れなく獣化する。月光を浴びて呼吸の度に上下するもふもふの背中を見ていると、触ってみたくなってついつい手が伸びる。


 寒さ厳しいこの国では、人を含めて生き物はみな強くて大きい。寒さに適応した狼たちは、毛足が長くダブルコートで温かい。

 床に敷いたマットの上で寝そべる銀色の狼は、満月の夜になるとぐったりして、翌日の昼頃まで大人しいので撫で放題だ。触ると手が沈むぐらいもっふりして、とても触り心地が良い。できれば腹も撫でさせてほしいのだが。


『こら! えりおっとに、かまうんじゃない!』


 もふもふ無遠慮に撫でていると、サフィルスと銀色の狼エリオットの間に、茶色の大きな狼がぬっと割り込む。獣の口では人の言葉が話せないため、頭の中に直接声を届けてくるのだが、簡単な言葉しか使えないので、子供のような口調になってしまうらしい。


「じゃあ、レグルスがもふらせてくれる?」

『うっ……しかたないな』

「やったぁ!」


 茶色の狼レグルスがサフィルスの隣に大人しく腹這いに伏せたので、サフィルスは嬉々としてその背中を撫でた。エリオットよりも毛が柔らかだが、撫でると筋肉でむっちりしている。首の付け根や腰のあたりを優しく指圧すると、レグルスは気持ち良さそうに目を細めた。


「どうですかお客さん?」

『くるしゅうない』

「あはは! 狼のマッサージのやり方、研究しようかな」


 ぺすんぺすんとレグルスの尻尾がマットを叩くうちに睡魔が忍び寄り、サフィルスはレグルスを枕に寝入ってしまった。

 翌日、レグルスは筋肉痛を隠すのに苦労したという。

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