筋肉

斉藤一

筋肉

 小学校の頃、ガリガリの男の子がいた。その子は、家が貧しくて食べる物が無く、給食はガツガツ食べていたが、家ではご飯が貰えていなかったらしい。

 小学生には、そんな事情なんて関係ないので、そのガリガリの子は


「ヒョロ」


 と呼ばれ、イジメられていた。イジメは壮絶で、ただでさえ食事が給食だけだというのに、その子の給食に虫を入れたり、少なくよそったりする事が日常だった。

 その子は、5年生の時に転校していった。先生も、その子がイジメられていることを知っていたため、送別会を開くことは無かった。イジメは、クラスの大半が参加していたからだ。


 それから時がたち、成人式を迎えた。小学校のクラスメイトの半分くらいが県外の大学等へ行っていたが、その日は奇跡的に全員集まる事が出来た。連絡を取り合えるようにと、実家ではなく、今の住所録と連絡先を交換した。その時、居ないはずのあいつが様子をうかがっていたなど、誰も気づいていなかった。

 その日の夜、打ち上げで酔っぱらって帰った数人のクラスメイトが何者かに殺された。それから、次々とクラスメイトが殺されていった。

 ある日、ラインに「遊びに行っていいか?」と友達から連絡があった。「いいよ」と返すと、その日の夜にチャイムを鳴らす音があった。出迎えると、見知らぬマッチョが玄関に立っていた。


「だ、誰だお前?」


「忘れたのか? ヒョロだよ」


 顔つきはヒョロに似ている気がするが、体格が全くヒョロじゃない。筋肉が盛り上がっていて、ボディービルダーの様だ。


「お前たちに復讐するために、鍛えたんだ。中学を出て、すぐに働きに出たさ。まかないが出る場所で助かったよ」


 そう言いながら、少ししか開けていなかった玄関の扉を、無理やり開けてきた。


「お前で最後だ。わざわざ住所録を作ってくれて助かったよ。じゃあな」


 ヒョロは、両手を俺の頭に添えると、そのままゴキリと首を折った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筋肉 斉藤一 @majiku77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説