13.サプライズ

 両親は東京駅から徒歩圏内の新築マンションに引っ越すからと告げてきた。


「一括払いで購入した」


 と、両親は自慢げに言った。大輝と雪子は言葉を失う。いくら五十手前の両親が共働きでも、学生の子供を二人も持つ家庭に、いったいどこからそんな大金が湧いてくるのか。大輝にも、自分がこれから住まう住居の物件価値を簡単に想像できる。


「うちって、こんなに裕福だったの」


 唐突に高額な買い物をして帰ってきた両親に聞いた。


「大輝は気にしなくていいのよ」


 母はにこやかな笑みを崩さない。


「ああ、そのことか、大輝には伝えていなかったな」


 くすぐったそうに微笑む父が不気味であった。自分だって家族の一員なのだから、問いの一つくらい発したかった。


「先生が支援してくれたんだ、大輝のためにと」

「なんで先生が? 僕のためってどういうこと」


 素直に喜べない。世間では信者にマンションを買い与える教祖なんて聞いたことがない。


「お前の将来のためだよ、先生はとてもお前を気に入ってくれているんだ」

「ただの患者だよ」

「お前は特別だそうだ、誇らしいよ」


 怖いなら逃げればいい。なんて、ニワトリを哀れに見ていた自分は、和絃からすれば滑稽に映っていただろう。ニワトリと同じように逃げないのだから。


「こういう暮らし、憧れていたの」


 はめ込みの窓から母親が階下を見下ろす。その横顔はとても満足そうだ。


「そう、良かった」


 太輝はそれ以上言えなかった。

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