04.友人たちの警告(回想)

 和絃は勉強や運動、何でもそつなくこなす。そんな彼は何を考えたのか、偏差値を下げてまで、大輝と同じ高校に進んだ。

 第一希望の公立高校に合格した大輝は、教師や家族よりも真っ先に、和絃に報告をした。


「そうなんだ! 良かったね」


 和絃は両手を広げて、太輝を抱擁した。全身を使って大輝を祝福してくれた。

 翌日、受験を終えた開放感から太輝はゲームにいそしんでいた。ちょうど和絃が太輝の部屋に遊びに来ていた。


「実はね、俺もダイちゃんと同じ所を受けたんだ」

「えっ」


 大輝の部屋で、静かな間が起きた。


「和絃は、推薦で私立に行くんじゃ、試験の日、僕と一緒じゃなかったじゃないか」

「あれ言ってなかったかな、ほら俺は併願だから。ダイちゃん達とは、別行動だったからね、そうだなダイちゃんが行くなら俺もそこに行こう」


 彼の動機が冗談か本心なのか、大輝はいささか理解に苦しむ。


「ダイちゃんを放っておけないだろ」


 それでも自然と頬が緩んでしまうくらいに、和絃の選択に心が揺れた。和絃が自分と同じ高校に進む。高校は別々に進む親友への未練が、くすぐったい嬉しさに変わる。心が落ち着かない。沸き立つ興奮を隠せないでいた大輝は、登校日に顔を合わせた友達に報告した。


「和絃も僕と同じ高校に行くんだって」


 一緒に喜んでくれるものかと思ったら、友達は揃って険しい表情をした。皆揃って同じ口ぶりだった。


「嘘だろ、あいつは私立に推薦が決まってた筈じゃ、なあ今更な話だけど、綿貫の家って外側は大企業のお坊ちゃんだけどさ、裏では暴力団と通じてるって聞くぞ」

「あいつ、芸能人よりイケメンだし、体格も良いだろ、それに頭もずば抜けてる、でもさ、なんか気味が悪いんだよ、沢村にだけべったりで、陰口になるから嫌だけどさ、沢村は騙されてるって」

「何で推薦の私立を蹴ってまで偏差値を下げて沢村と同じ高校に行くんだよ、やばいって、お前今からでも遅くないから他の滑り止めに決めろよ。おい、まさか何も気が付いていないとか言うなよな? 一番、危機感を持たないとヤバイのお前だろう」


 これからも和絃と友人関係を築ける。そう呑気にはしゃぐ大輝に忠告してきた。


 旧友達の言い分は言い過ぎではないだろうか。揃いも揃って和絃を褒め称える口ぶりをするが、最後には危険だと口を挟む。その言葉を脅威と捉えるべきか、決めるのは太輝だ。


「和絃を悪く言うなよ」


 和絃を侮辱されたと、大輝は目をしばたたかせる。理解の範疇を超える忠告に、それがどうしたと大輝は気にも留めないでいた。和絃の実家には一度も訪れていない。放課後や週末、遊ぶときは決まって大輝の家だ。これで本当に和絃の親友と名乗れるのか、自負しても良いのかと問われたら説明に困る。大輝は居心地の悪さを持て余していた。それでも和絃が自ら打ち明けようとしない限り、その一線は越えないように配慮していた。


『お前は危機感がない、和絃に騙されている』


 確かに幾ら親友だからといって、和絃は隠し事が多かった。何よりも大輝を不安にさせるのは、和絃の過保護さだ。友情にしては行き過ぎている気がする。騙されているとか、親友を疑うような悩みなんてない。けれども、自分が和絃以外の友人と騒いでいると決まって、彼の機嫌が悪くなる。


「ダイちゃん」

「和絃、どうしたの」

「何でもないよ、ただね、少し寂しいなって」


 少し、と強調した和絃は、はにかみながら笑った。あの時の感情を抑えこんだ和絃の顔を、自分はいつまでも忘れないだろう。胸を裂くはかなさに、太輝は「そうなんだ」としか返せなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る