第12話 決意

 有名レストランで、家族水入らずの食事を楽しんでいたのに、こっそりと小さなメモ用紙が渡された。中を確認し、アランは執事のフレディ-に目配せする。

 レストランのオーナーが話したいと、連絡してきたのだ。

 旧友と会うから馬車で先に帰るように告げると、オーナーの元に向かった。

「私も忙しいのだがね。」

「なんだい。良いところばかりさらっておいて、文句の一つも言わせろよ。」

 カルトスとは、食料品中心の商売をしている関係上、古い付き合いであった。

「あれは、無利子だ。別に儲けてない。」

「それに、セレーナちゃんを寝室に呼んだそうじゃないか。」

「セレーナはうちの医療担当だからな。それより、何故そんなことを知っている?」

「執事はお前の寝室の前で倒れて、それをセレーナちゃんがいち早く手当てしたんだとか?セレーナちゃんがお前の寝室にいたとしか思えないだろ?」

「はぁ、寝室にいたのは事実だよ。私の妻もいたがね。」

「まぁ、セレーナちゃんに不貞を働いていないならいいんだ。これでも親代わりだと思っているんでね。」

 カルトスは、ただ揶揄からかいたかっただけのようだ。

「お前、わかっていて聞いていないか?」

「さぁね。他にも親代わりの僕に話すことはないかい?」

「親じゃないだろ?」

「彼女がこの前来たときに男を連れていたんだが、ただの護衛とは思えなくてな。俺の知らない間にどうなっているんだ?」

 マークはそんなところまで付いていったのかと、過保護っぷりに呆れた。

「あぁ。ダリウスの息子だろ?ダリウスが、手紙を送ってきたんだ。死ぬまでに息子に恋人くらい出来れば、なんて弱気でな。上手く行けば御の字。ダメでもダリウスが穏やかに最後を迎えられるならと思ってセレーナを行かせたんだ。まさか治してしまうなんてな。二人の関係は、まだ始まってもいない。口を出して壊すなよ。」

「セレーナちゃんも大人だから、相手がいい人なら口を出すつもりはないよ。ダリウスの息子なら、まぁまぁだな。」

「厳しいなぁ~。」

「娘みたいなもんだからな~。」

「娘じゃないだろ?彼女にはちゃんと親がいるだろ?」

「もちろん!俺の酒飲み相手だ。」

 アランは大きなため息を付いた。




 今日も午前中はエリントン家の商会にいた。アランが友人のところに行くというので、見送ることにした。いつもなら馬車が到着する時間になっても、執事のフレディが呼びに来ない。アランと一緒に入り口まで行くことにした。セレーナは、そのまま屋敷によってハワード家に行くのだ。

「旦那様。馬車が参りません。」

 困り顔のフレディがいた。すぐにセレーナは、違和感に気が付く。

 魔力の流れが自然ではない。探るような魔力を向けられているのだが、発生源は塀の向こう側だ。

「ジュリアンさんが来るまで動かないでください。フレディさんも道路を見に行ってはいけません。」

 セレーナは、アランと塀の間に立ち位置を変えた。

 それだけで、アランとフレディは異変の発生源を理解した。

 "魔力で何を探っているのかしら"

 例えば水分などで人体を関知しているとしたら、3人のうちどれがアランかわからないはず。いや、小柄なセレーナだけは、アランではないと認識されているかもしれない。

「旦那様~!」

 不審者とは反対側、敷地内の通路を通ってジュリアンがやってきた。

「屋敷の方に馬車が到着しております。」

 フレディが、「はて?」と言いながら、不審者の方向に視線を向ける。

「旦那様、迎えを間違えて頼んでしまったようです。行きましょう。」

 探るような魔力がなくなり、男が姿を表す。アランの場所を確認すると、ナイフを構えて走り出した。

「おまえ!」

 ジュリアンが止めに入るが、間に合わない。

 セレーナが魔法を発動。男の重力を軽くする。ウィルには自分にかけて逃げるように言われたが、それを敵にかけたのだ。

 「うわぁぁ~!!」

 走っているはずが大きく跳ね上がり、商会の建物に向かって飛んでいった。

 "あっ、ぶつかる"

「うわぁぁぁぁ~!!」

 建物にぶつかる前に、魔法を切ったので、そのまま墜落!

「こぉの~、尼ぁ~!!」

 誰が魔法を使ったのかわかったのだろう。ギラギラと目を怒らせて、ナイフを構えた。

 顔を半分隠した男は、魔法の使い手だ。まだ、魔法を使い始めたばかりのジュリアンでは分が悪い。

 男が投げてきたナイフには、回りの空気を圧縮してぶつけ、空気抵抗で失速させ落とす。

 男はナイフを拾い、セレーナに向かって走り出す。

 踏み込んだタイミングを見計らって、重力を軽くし、飛び上がらせる。

「あわわぁぁぁ~!」

 男はセレーナを飛び越して、道路に転がりでる。

 道を歩いていた人々が、驚いて逃げ始めた。

 怒りに燃えた目でセレーナを睨むと、低い体制で構える。高く跳ぶと危険だと気がついたらしい。

 走り出そうとするところに、何か黒いものが体当たりした。男と、黒いものが転がる。

 男は、マークに押さえ込まれていた。もう一人、ウィルが騎士の敬礼をした。

 不審者を見かけてから、エリントン家周辺の見回り時間を増やしていたのだ。

「エリントン当主様、お怪我はございませんか?」

「あぁ。ありがとう。セレーナが臨機応変に足止めしてくれたよ。ジュリアン、おまえを刺したのもこいつか?」

 頷くジュリアン。

「私を付けていたのも、この男です。」

 マークが男を縛り上げ、顔を見せるように連れてくる。

「あっ!お前は!?」

 アランは男を指差した。

「連行して参ります。詳しい話は、後日。」

 二人はビシッと敬礼してから、男を両側から挟むように歩いていった。

「旦那様、急ぎましょう。」

 約束の時間は過ぎている。アランは急いで出掛けていった。


 "まぁ、騎士姿で敬礼するマークって、別人のようね。優しい彼も素敵だけれど、・・・"




 不審者の顔は、アランには見覚えがあった。ガンバス家で見たことがある男にとても似ている。騎士もその方向で調べ、ガンバス家の関係者であることがわかった。ただ、ガンバス家は、男が勝手にやったことと、関与を否定している。

 これからも捜査を続行するとのことだ。




「マーク様は魔力が多いので、力ずくで魔法を使っているのではないでしょうか?」

 セレーナの雇い主はダリウスになった。マークのことは名前で呼んでいる。

 ハワード家の庭。花壇の花がきれいに咲いていて、暖かい日差しが心地よい。ベンチに並んで腰掛けながら、魔法について話していた。

 魔道具工房に向かっていたセレーナに、「魔力消費について教えて欲しい」とマークから声をかけたのだ。

「魔法の発現する理論を理解して使うと、無駄な魔力を消費せずにすみます。マーク様が、よくお使いになるのは、身体強化の魔法ですね。・・マーク様?」

 説明しているセレーナの顔を愛おしそうに見つめるマーク。

「マーク様?聞いていらっしゃいましたか?」

 軽く膨れるセレーナを見つめて、頷いた。

「あぁ。もちろん。セレーナの声を聞き逃すわけないだろ?」

 理論を理解しているのかと聞きたかったのだが、そんなことは構わず、マークはセレーナの手を握った。

 セレーナの心臓が、トクンと小さく波打った。

「あ、あの。マーク様?」

「セレーナ。好きだ。」

 マークの優しい声が鼓膜を揺らし、脳を麻痺させる。

「借りたものは、頑張って返すよ。それまで少しの間、待っていて欲しいんだ。」

 ダリウスの治療にかかった金額くらい、事業が軌道に乗れば、そう遠くないうちに返し終わるだろう。

わたくしの家の借金の方が、多いのではないかしら。」

 眉を下げて、申し訳なさそうにする。

わたくし、頑張って働きますわ。」

 魔道具の売れ行きが良ければ、追加の給金が貰えることになっていた。

「ははは。俺も頑張って出世しないとな。大好きだ。セレーナの隣にいさせて欲しい。」

 セレーナの手に優しく口づけた。



   完



 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 読んでいただきありがとうございます。

 続きは別の物語でかけたらいいなと思ってます。


『保健師も魔道具製作も!今日も楽しく働きます!』

よろしくお願いします😊

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家が潰れてしまったので働きます。 翠雨 @suiu11

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