第弐拾伍集:真相
木で出来た遊具が転がっている。
布と革で作られた簡単な
巨木の枝にいくつも括り付けられた
ただ、そんな中に、恐ろしいものが混ざっていた。
羊や山羊、牛の頭部が据えられた台と、それらに刺さる小さな刃物。
ちょうど、子供が投げられるくらいの大きさと重さ。
いったい、何に備えて……。
(……ああ、やっぱりそうなのか)
壁にかけられた布。
明らかに窓とは違う場所にあるそれをめくると、幼い頃の蘭玉だと思われる肖像画が出てきた。
(横に描かれている女性は……)
絵画を裏返すと、そこには名前が書いてあった。
――
とても似ている。
(
あまり一つのところに長居すると危険だ。
(……ここも
父親を知られると何か都合が悪いのだろうか。
そう思った瞬間、全身から汗が噴き出すような、嫌な考えがよぎった。
(都合が悪いんじゃない。それが切り札なのだとしたら?)
しかし、証拠がない。
(何も見つからない……)
すやすやと眠る住人達。
彼らが来ている服には、弥蛍伝統の文様が刺繍されている。
どこにも、蘭玉の父親の証拠はなかった。
(……あ)
わずかな風を纏い、飛び立つ。
夜空で待っていたのは
「義兄上、どうしてここが……」
「蘭玉の母親がわかったんだな」
「そうです……。どうしたんですか?」
「これは
――子、
「私の実の父親にして、先代の祥国皇帝だ」
「じゃぁ……、蘭玉は……」
「皇帝を
「蘭玉が皇帝になる……」
「ああ、そうだ」
蘭玉は、殺すために、子供を作ったのか。
自身の父親の、妻を奪ってまで。
「兄上が危ない。このままでは、確実に殺されてしまう。金苑も、無事では済まないだろう」
「そんな……」
「しっかりしろ、
「で、でも」
「わたしは人間だが、それでも太子として龍神族の掟に従わねばならん。ただでさえ、最近、義父上……、つまりは王からの監視が厳しくなっている。今日もここに来るまでに何度護衛を巻いたことか……」
「お、掟ってなんですか?」
「基本的に、神族は人間の争いごとに首を突っ込んではいけないんだ。力が強すぎるからな」
「でも、猿神族のみなさんは……」
「猿神族は
「それはどうして……」
「人間の女性の卵子では神族の種を孵化させることが難しく、かといって、人間の男の種は神族の女性には少し力が足りない。簡単に言えば、子が出来にくいのだ。たしか、葦原国に住む
「だから龍神族は〈取り替え子〉の儀式をしているんですね」
「そうだ。わたしと
「おお……。だから義兄上は仮面で龍神族の力が使えるのですね」
「その通り。ただの人間ではこうはいかないだろうな」
「あの、義兄上がこうして祥国皇帝家について調べているのは、やはり、淑妃様のためなのですか?」
「……ああ、そうだ。だから義父上は目を瞑ってくれている。しかし、それもそろそろ終わりだろう。わたしは人間の前に現れすぎてしまった。しばらく龍王谷を出してもらえないかもしれないな」
「え、じゃぁ……。会えなくなってしまうのですか?」
「
「ううん、相談してみます」
「そうしてくれ。わたしとて、
「はい。わたしも、この縁を大事にしたいです」
「ありがとう。では、先に帰るとするよ。でないと、護衛たちが飛んできてしまう」
「ふふ。では、また」
「ああ、またな」
朱い髪の煌めきが、まるで残り香のように
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